経産省が「北海道で発電予定の再エネを首都圏に送る海底送電網の整備」を広域機関に要請へ、費用2.2兆円は電気代に上乗せ

  経産省が電力広域的運営推進機関に対し、北海道から首都圏に電気を送る海底送電線の整備を要請すると読売新聞など各メディアが報じています。

  この計画を諸手を挙げて歓迎するのは「再生可能エネ事業者だけ」でしょう。事業費は2.2兆円を必要とし、送電する予定の電力は「泊原発の発電量よりも少ない」からです。

  送電網の整備費2.2兆円を電気代に上乗せしてまで “高額な買取額が設定されたままの再生可能エネルギー” を首都圏で使う経済的合理性はありません。このことに触れないメディアは「再エネ業界の回し者」と非難されても仕方ないでしょう。


『北海道と本州を結ぶ海底直流送電線』は経産省の肝いりプロジェクト

  読売新聞などが報じた内容は経産省が『マスタープランに基づく地域間連系線等の増強』という形で注力しており、『電力・ガス事業分科会』などで資料(PDF)として示されています。

  目的は「洋上風力など再生可能エネルギーによる電力を需要の多い首都圏で消費するため」です。

  北海道から東京への送電線は “合計で” 800万 kW が予定されており、経産省が広域機関に要請を出す『日本海側の海底送電線』は 200万 kW に過ぎません。

  消費者である電力需要家にとっては『経済的合理性の乏しいプロジェクト』であることは明らかです。以下の列挙する問題点に言及しない報道機関は姿勢が問題視されるべきでしょう。


海底送電線の整備費用は電気代に上乗せされる

  マスコミが少し触れる程度の言及に留めている項目の1つが「海底送電線の整備に要する費用は電気代に上乗せする形で回収される」という点です。

  広大な土地がある北海道で再生エネの導入を進める。北海道の日本海側は強い風が吹き、洋上風力発電の適地が多い。太陽光発電も道内全域で普及が見込める。
  海底送電線は今回を含め計約800万キロ・ワットまで拡張することも検討し、投資額は最大2・2兆円を見込む。電力会社や経産省などが費用負担を調整する。費用は最終的には電気料金などで回収される見込みだ。

  つまり、事業の採算性は「送電線の整備費用を上乗せてしても『既存の発電方法』よりも安価な手段で発電できること」が条件になるはずですが、海底送電線を通して北海道から首都圏に送られる予定なのは “割高な再生可能エネで発電された電気” です。

  この方針を歓迎するのは「市場価格よりも高値で買い取ることが保証されている再生可能エネルギーの事業者」や「再エネ事業者から献金や広告出稿を受け取る者」に限られます。

  我田引水である現状が伏せられていることは問題と言わざるを得ないでしょう。


夏季の洋上風力による発電量は冬季の半分

  メディアは「広大な北海道には洋上風力発電や太陽光発電のポテンシャルがあり、それらの電力を首都圏に送ることで電力逼迫は解消される」と主張していますが、これは事実無根です。

  資源エネルギー庁が公表している『電力調査統計』の『発電実績』が根拠です。

  風力発電は事業者全体で「400万 kW の設備容量」が存在しますが、発電実績は冬季の『月・9億 kWh』がピークで夏季は冬季の半分を下回る『月・4億 kWh』ほどに留まっています。

  首都圏での “夏場の” 電力逼迫に「北海道で発電した洋上風力(や太陽光)」で埋め合わせることは現実的ではありません。なぜなら、原発よりも割高な発電源であることが『発電コスト検証ワーキンググループ』で示されているからです。

  太陽光発電や(洋上風力よりも設備費が安価な)陸上風力でも『統合コスト』は原発よりも高いのです。北海道には設備容量 200万kW を持つ泊原発が再稼働を待っている状況です。

  “原発よりも割高な電気を首都圏に送るための送電線” を消費者の負担で整備することは「利権政治」との批判は免れないと思われます。


「日本海側の海底送電線があれば北電から接続拒否をされずに儲けられる」も再エネ業界の本音

  北海道や九州では春先に「調整可能な発電量を超過する再生可能エネルギーによる発電」があり、配電事業者から送電網への接続が拒否される事例が発生しています。

  電力需要が存在しない現実を事業者は受け入れるべきなのですが、『発電した全電力量を(市場よりも高い価格で)買い取る制度』が存在しているため「全部買い取れ」と事業者は強く要求します。

  北海道では「蓄電池を事業者側が併設すべき」と拒絶されましたが、政治家への働きかけもあり「費用を共同負担することを前提」と北電が譲歩を強いられている状況(PDF)です。

  ただ、この譲歩案だと事業者側の支出が増えますし、電力市場の規模は今のままです。しかし、海底送電線で首都圏と接続されると調整力が増えることで『再生可能エネルギーの買取量』も増えることになります。

  つまり、再生可能エネルギー事業者は “首都圏の電力消費者が支払う電気代” からも FIT による収入を新たに得られることになるのです。首都圏を地盤にする与野党の国会議員に再エネ業界が働きかける理由は示されたと言えるでしょう。



  再生可能エネルギーが火力や原子力よりも安価で安定した発電源であるなら、FIT を廃止して市場で火力や原子力を駆逐すれば良いことです。補助金制度の存続を求めている時点で再エネ推進派の主張は詐欺的なものと見なさなければならないはずです。