「火力発電所を『電力システム改革』と『カーボンニュートラル』による採算悪化で市場から退出させたこと」が今の電力不足の原因

  東京電力が電力需給の逼迫注意報を出したことで「電力不足の原因」が注目されつつあります。

  今の電力不足の原因は「政府が行った電力システム改革の失敗」と「カーボンニュートラルの推進」で火力発電所の採算が悪化して市場から退出させられたからです。

  “岸田応援団” は「原発を再稼働させても今夏には間に合わない」と擁護していますが、電力不足の懸念はトヨタの豊田章男氏などが示していたのです。必要な措置を講じず生還していた責任を問われることは止むを得ないでしょう。


「事業者間の競争を促すことで電気料金を抑制」との目的で実施された『電力システム改革』

  発端は政府が実施した『電力システム改革』です。その目的は資源エネルギー庁のホームページで次のように明記されています。

  • 電力の安定供給を確保する
  • 電気料金を最大限抑制する
  • 電気利用者の選択肢を増やし、企業の事業機会を拡大する

  「事業者間の競争を促して電気料金の抑制につなげることで電力システム改革の目的を達成することは可能」と東京大学の松村教授らは主張していたのですが、現実世界ではそうはなりませんでした。

  学者や経産省による “青写真” には「電力自由化を行った国では電気料金が上がった」との指摘は当初から行われていたのです。電力会社などからの警鐘に聞く耳を持たなかった責任は問われるべきでしょう。


『電力システム改革』で大手電力会社が火力発電所に投資するメリットが薄れた

  かつての『電力システム』は電力会社に地域独占を認めることとの引き換えで供給義務を課すものでした。(参考資料:PDF

  供給義務を負った電力会社は「夏場のピーク時に対応できるだけの発電能力を有すること」が必要となるため、“夏季の有事に備えた発電力” は「コスト高」と映ります。これが上述した『電力システム改革』を招く要因となりました。

  しかし、『電力システム改革』は失敗に終わりました。これは制度設計の “バグ” を修正できなかったことが理由です。

  バグの1つは “電力転売ヤー” と揶揄される自前の発電所を持たない新電力が電力小売業に参入したことです。大手電力会社は「ピーク時に備えた火力発電所の維持費」を負担するため、価格競争では “大手電力会社のバックアップ電源” にタダ乗りできる新電力に負けてしまいます

  これでは大手電力会社は売上高の減少から収益が悪化しますし、採算の悪い火力発電所から閉鎖されて行くのは止むを得ないことと言えるでしょう。


卸価格に上限が設けられている『自由化された電力市場』

  電力自由化が行われたからには需給逼迫時には高値で電気が売買されることになるはずですが、日本では経産省が電気の卸価格に上限を設けたために市場は機能していません

  2021年1月上旬に寒波と悪天候で電力需要が大幅に増加したものの、LNG の在庫量が少なく なっていたために卸電力市場で『需要増・供給減』による価格高騰が発生。

  卸電力市場での調達を前提にしていた新電力がコスト高で経営難に追い込まれました。 一部の新電力が「自民党の再生エネ議連」に泣きつき、再生エネ議連からの要望を受けた経産省下の資源エネ庁が インバランス料金の上限を新たに設定したのです。

  これでは “インバランス料金の上限値で維持費を回収できない火力発電所” は「閉鎖」が不可避です。 政府のエネルギー政策や自民党・再生エネ議連が招いた電力不足であることは否定できないでしょう。


『FIT による再生可能エネルギーの積極導入』も火力発電所の稼働効率を下げた原因

  小売部門では『自前の発電所を持たない新電力』による “バックアップ用の火力発電所への設備投資” にタダ乗りをされている大手電力会社ですが、発電部門でも FIT (Feed-In Tariff, 全量固定買取制度)による弊害を受けています。

  これは政府が「再生可能エネルギーの普及拡大による脱炭素社会の構築」をエネルギー政策として掲げて突き進んでいることが理由です。

  太陽光や風力などの自然エネルギーは発電量が安定しない欠点があります。太陽光は曇天時や夜間では発電量が著しく低下するため、現状では火力発電による補助が不可避となっています。

  しかし、“バックアップを担う火力発電” に対する維持費の補填は太陽光発電事業者(やエネルギー政策を決定した政府)からは行われていないのです。

  また、火力発電に用いる燃料費が高騰している状況であるにも関わらず、大手電力会社は電気代への価格転嫁ができていません。これでは大手電力会社が持つ火力発電所が市場から退出することにブレーキをかけることはできないでしょう。



  しかも、カーボンニュートラルで資源エネルギー庁は「2030年までに火力発電所を100基減らせ」と要求し、銀行は「新たな火力発電所の建設には資金を出さない」と宣言する有様です。

  調整力のある火力発電所への投資を『電力システム改革』や『エネルギー戦略』によって敬遠させたことが今の電力需給逼迫問題の原因なのです。

  旗振り役をした当事者や今の行政府が方針転換を決断しない限り、今冬以降も電力需給の逼迫は続くことになるでしょう。