林芳正外相、他国のニーズから目を背けて「コロナ対策をグローバルで維持・強化すべき」とオンラインの外相会合で主張

  日本の林芳正外務大臣がオンラインの外相会合で「新型コロナの終息に向けた国際的保健分野での取り組みをリードしていく」と語ったと NHK が報じています。

  林外相は「対策を維持・強化しグローバルで行動し続ける必要がある」と主張していますが、先進国では対策は緩和・打ち切りとなり、アフリカなどの途上国では「新型コロナよりも深刻な問題が優先」との立場です。

  『コロナ対策の強化』を支持するのは「日本の高齢者」や「コロナ対策で補助金を得る医療業界」など “一部の受益者” だけで他国の外相からの支持を得ることは難しいと思われます。


「2022年中に新型コロナを収束させる」との目的に沿った行動は採らない日本政府

  NHK が記事にした会合は外務省のホームページでも公表されています。

  冒頭、林大臣から、新型コロナの収束に向け、引き続き対策を維持・強化し、強い意志を持ってグローバルに行動し続ける必要性を改めて強調し、日本がこれまで途上国に対し包括的に行ってきたワクチン支援を始めとする新型コロナ対策支援の取組を紹介しました。

  会合の目的は「2022年中に新型コロナを収束させるために各国の具体的な取り組みを促進」と明記されていますが、日本は新型コロナを “終息” させるための『出口戦略』を何も示せていないことが問題です。

  欧米では新型コロナ対策は緩和・撤廃が進み、「新型コロナは収束」という扱いになっています。その一方で日本は『新型コロナの新規陽性者数』で騒ぐ有様です。

  岸田首相は「2022年6月には水際対策を G7 並に緩和する」と宣言したものの、行動を起こすことはありませんでした。この発言の2ヶ月後に林外相が「コロナ対策の維持・強化を」と訴えているのですから話を聞いてもらえなくなると覚悟する必要があるでしょう。


アフリカでは新型コロナワクチンがそっぽを向かれる

  林外相は「途上国に新型コロナワクチンの接種支援をしている」と実績をアピールしていますが、アフリカでは新型コロナワクチンが余って廃棄される事態になっているのです。

  これはロイター通信が記事にしています。

  多くのアフリカ諸国は長年、死に至る疾病とつきあってきた。結核には毎年数百万人がかかってしまう。マラリアでは毎年数十万人が命を落とし、その大半が5歳未満の子どもだ。
  (中略)
  アクラのビジネスマン、マウレさんは「質問させてほしい。今現在、ガーナで最大の問題は新型コロナだろうか。燃料が買えなくて苦しんでいるインフレよりも大きな問題だと思うのか」と問いかけてきた。
  アフリカ大陸では今、新型コロナのワクチンが余っている。接種会場は空っぽで、未使用のワクチンの小瓶が何百万個も積み上がっている。アフリカで早くからワクチン製造に乗り出した企業の1つは、受注待ちの状態だ。

  “新型コロナよりも致死率の高い疾病” や “死者の絶対数が多い疾病” がアフリカなどの途上国には蔓延しているのです。

  それらの疾病対策には無関心で「(先進国の高齢者にとって脅威となっている)新型コロナのワクチンを接種すべき」と訴えたところで聞く耳は持たれないでしょう。なぜなら、途上国で生活する人々にとってのメリットは皆無だからです。

  また、資源インフレで途上国の経済が痛手を負っていることも無視できません。これは日本経済も他人事では済まないからです。この観点が欠落した外相会議で得られる成果は「政治家の自尊心ぐらい」と言わざるを得ないでしょう。


G7 でトップクラスの新型コロナワクチン3回目接種率の日本が感染拡大に見舞われる皮肉な状況

  岸田首相は6月15日に行った記者会見で日本の新型コロナ対策を以下のように誇っています。

  • 欧米諸国に比べ、感染を極めて低いレベルに抑え込んでいる
    • 我が国の取組とその成果に高い評価が示されている
  • 3回目接種率は 60% 超
    • 高齢者は 90%
    • G7 でもトップクラスの水準
  • こうした取組の結果として、緊急事態宣言を回避しながら、感染拡大防止と経済活動の維持を両立させることができた

  ところが、“欧米諸国と比較して感染対策を継続している日本” で新型コロナの感染状況が悪化しているのです。

  現状は「日本政府が採っている『感染対策』では陽性者数の増減に影響を及ぼさない」と示しているに過ぎません。「医療の介入が必要な患者数」ではなく「陽性反応者数」で騒いでいるのですからナンセンスな事態と言えるでしょう。



  収入が経済情勢によって左右しない日本の高齢者や医療従事者は『コロナ対策の継続』を支持するでしょう。前者は年金、後者は診療報酬で現役世代からの “仕送り” が収入源だからです。

  高齢者や医療業界からの支持や支援に後押しされた自民党政権が「日本が採っているコロナ対策が他国でも支持・採用される」と考えるようでは墓穴を掘る結果になると思われます。