ロシアからの LNG で発電している電力分を『日本国内にある既存の原発』で代替することは可能か

  ウクライナに侵略したロシアへの経済制裁として「天然ガスの輸入停止」がヨーロッパで採られようとしています。その流れで日本は「LNG (液化天然ガス)の輸入停止」が要求されることになるでしょう。

  日本は LNG 火力で主電源であるため、LNG の輸入を止めたくない事情はあります。

  ただ、政治的な理由で止めている原子力発電所を再稼働させれば、ロシアからの輸入 LNG で発電している電力供給は代替可能なのです。理由を順に説明することにしましょう。


「100万kW の LNG火力発電」に必要な燃料は月に8万トン

  まず、LNG 火力発電に用いる燃料がどのぐらい必要であるかは目安が示されています。

  資源エネルギー庁によりますと、100万kW の LNG 火力発電所を1年間運転するために必要な燃料は95万トン。これは月に8万トンの LNG が必要であることを意味しています。

  必要となる燃料の目安が分かったのであれば、次に確認すべきなのは「ロシアから LNG (液化天然ガス)をどのぐらい輸入しているのか」です。


『月に70万トン前後の LNG』をロシアから輸入

  日本の輸出入は財務省が財務省貿易統計を発表しており、月ごとの発表資料から「ロシアからの液化天然ガスの輸入量および購入価格」を確認することが可能です。それらをグラフ化すると以下のようになります。

  2019年1月以降で見ますと、2022年1月が輸入量が最も多く78万トン。コロナ禍で世界中での需要が消失していた2020年初夏は輸入量が「30万トン台」にまで減少していました。

  2019年は月平均で53.3万トン。2021年は同54.7万トンです。これは「100万kW の LNG 火力発電所7施設分(≒ 56万トン)が1ヶ月に必要とする燃料」とほぼ同じです。

  2022年に入ってからの『ロシアからの LNG 輸入量』は増えてはいるものの、それでも「100万kW の LNG 火力発電所10施設分には満たない水準」となっています。


設置変更許可を得るも再稼働していない原発の発電容量だけの710万kWもある

  資源エネルギー庁の公式ウェブサイトで確認しますと、“新基準の設置変更許可は得るも再稼働には至っていない原発” の発電容量だけで 710万kW も存在します。

表: 再稼働していない主な原子力発電所(2022年4月)
所有会社 名称状況出力
北海道電力
(207万kW)
泊・1号機審査中58万kW
泊・2号機58万kW
泊・3号機91万kW
東北電力
(193万kW)
東通審査中110万kW
女川・2号機設置変更許可83万kW
日本原子力発電
(226万kW)
東海第二・2号機設置変更許可110万kW
敦賀・2号機審査中116万kW
東京電力
(272万kW)
柏崎刈羽・6号機設置変更許可136万kW
柏崎刈羽・7号機136万kW
中部電力
(224万kW)
浜岡・3号機審査中110万kW
浜岡・4号機114万kW
北陸電力志賀・2号機審査中121万kW
関西電力
(166万kW)
高浜・1号機設置変更許可83万kW
高浜・2号機83万kW
中国電力
(219万kW)
島根・2号機設置変更許可82万kW
島根・3号機審査中137万kW

  要するに、“新基準の適用審査を満たした原発” をすべて再稼働させるだけで「ロシアから輸入している LNG で発電する電力とほぼ同量」を確保できるのです。

  『新基準の適用審査』を満たすことは原発再稼働の条件ではありませんし、適用審査を満たした原発でも「『特重(特定重大事故等対処施設)』を満たしていない」との理由で稼働が止められている状況です。

  まずはテロ対策を目的とした『特重』の設備更新で再稼働が妨げられている原発から運転を再開させるべきでしょう。ロシアに「毎月3桁億円のガス代」を払い続けることは控えた方が良いのですから。