異例なのは「最終保証供給の契約件数増」ではなく「最終保証供給料金の方が市場価格よりも安い」こと

  朝日新聞が電力会社との契約先が見つからない企業にとっての「最後の砦」である『最終保証供給』の契約数が前年同期比で7倍となる異例の事態が起きていると報じています。

  ただ、この記事は重要な問題に言及されていません。記事の元ネタとなっている経産省の有識者会議では「最終保証供給料金の方が市場価格よりも安い “逆ザヤ” が起きている」と問題視しているからです。

  したがって、制度そのものに欠陥があることを報道機関である朝日新聞は記事で指摘すべきでしょう。


『自由料金』よりも『最終保証供給料金』の方が安いという異常事態

  朝日新聞が報じた記事の取材源は経産省の電力・ガス取引監視等委員会が4月21日に開いた第72回制度設計専門会合です。そこで用いられた資料10(PDF)に記されている内容が元ネタに該当します。

  問題となっているのは「最終保証供給料金と自由料金の関係」です。

  そもそも『最終保証供給』は「小売電気事業者の事業撤退や倒産で契約切り替えを余儀なくされた需要家」や「料金不払いで小売事業者との契約を解約された需要家」を想定しています。

  つまり、短期契約が前提で罰則的な要素を含むため、『最終保証供給』は料金が『自由料金』よりも相当割高に設定されているはずでした。

  ところが、電力自由化で新規参入組の『新電力』を守るために経産省(や資源エネルギー庁)が再生エネ界隈の族議員からの働き方を受けてルール変更を実施。最終保証供給料金の方が自由価格よりも安いという状況が起きてしまったのです。

  これは制度に欠陥があると言わざるを得ないでしょう。


『自由料金』よりも安い『最終保証供給料金』では「一般送配電事業者の赤字が拡大」する

  市場価格である『自由料金』よりも安価な『最終保証供給料金』と “絶対に” 契約できることが法律で定められているのですから、新電力との契約を切られることになった需要家が殺到するのは必然です。

  ここで問題となるのは「一般配送電事業者の赤字が拡大すること」です。

  最終保証供給を受ける需要家が増えるほど一般配送電事業者の赤字は拡大するのです。配送電事業者は発電事業者ではないため、赤字が増えると「人件費の削減」か「設備投資費の圧縮」しか打開策を持ちません。

  「(電気を届けるための)託送料の値上げ」という選択肢は存在するのですが、再生可能エネ事業者が(再生エネ議連を経由して)猛反発をすることが火を見るよりも明らかです。

  したがって、送電網の保守・運用など設備投資に回す経営体力が失われることになり、停電が発生する可能性が高まると予想されます。



  “天候任せの再生可能エネルギー” に市場よりも高値で全量買い取るという歪んだ制度なのですから電力の安定供給が損なわれるのは不可避でしょう。電力関係の問題が噴出するのはこれからが本番と思われます。