“コロナが続く前提で赤字路線を切ろうとする JR 西日本の姿勢” を批判した島根県の丸山知事、『大型連休中の県外往来自粛』を要請

  島根県の地方紙・山陰中央新報によりますと、丸山達也知事が4月末からの大型連休中に県外の往来を自粛するよう要請したとのことです。

  この丸山知事の方針は問い質されなければなりません。なぜなら、JR 西日本が発表した『不採算線区問題』で「コロナがずっと続く前提で路線展開を考えるのはおかしい」と批判した当人だからです。

  丸山知事は「コロナ対策を継続しつつ(その弊害で)利用者が減少して赤字が膨らむ山陰線の収益を改善させることができる “魔法の杖” 」を持っているのでしょう。報道機関が丸山知事の見解を質すべきです。


JR西日本が『線区ごとの収支の状況』を公表

  発端は JR 西日本が4月11日に発表した『不採算線区』です。これが島根県にとっては「厳しい数字」を突き付けられることになりました。

表: 島根県での JR 西日本の採算(2017〜2019年の平均)
路線区間 営業係数営業損失輸送密度
(人/日)
木次線宍道
~ 出雲横田
13237.2億円277
出雲横田
~ 備後落合
65962.7億円37
山陰線出雲市
~ 益田
44634.5億円1177
益田
~ 長門市
131411.5億円271
山口線津和野
~ 益田
6815.5億円535

  不採算線区と名指しされた島根県内の JR 西日本が持つ路線はコロナ禍以前で「年60億円超の赤字」だったのです。

  しかも、100円の売上高を計上するために必要となるコストを示す『営業係数』は400円以上となっており、路線を維持するメリットが JR 側には乏しいことが実情です。

  赤字額は「大阪近郊の在来線」や「山陽新幹線」での収益で補填されていたものの、『新型コロナ対策』を理由にした外出自粛要請で鉄道利用者数が激減。赤字補填に回す余力が失われることになった現実は直視しなければならないことでしょう。


「コロナがずっと続く前提で経営戦略を立てる JR 西日本」を批判する丸山県知事

  JR 西日本が「今の赤字路線をこれまでと同様に維持するのは不可能」と公表したことを受け、慌てたのが丸山知事です。発表から3日後の4月14日の定例記者会見で以下の “演説” を行なっているからです。

  だって、これは持ててた数字ですよ、2019年まで。持てない状況がどこまで生じるかというのは、今は分からない。コロナが終わった後にどこまで売上げが戻るかということは分からない。だから、それで経営上不安だと。で、いろんな対策を講じられて、いろんな経営改善やられて、努力されている。それは評価しますよ、路線維持のためでもあるからね。でも、赤字だからこれは全部持てないとか、今の財務状況を基に持てませんというのは、一時的には、それはコロナがずっと続くという前提での路線展開というのは、それは悲観的過ぎる経営の前提条件だと思うので、それはおかしいんじゃないでしょうかというふうに私は考えますね。

  会見に出席した記者は矛盾に気づいたことでしょう。

  『(鉄道利用者を減らすことになる)コロナ対策』を続けるよう全国知事会などで要求している知事が「鉄道利用者減少による赤字を理由に廃線に向けた動きをするとは何事か」と文句を言っているからです。


「赤字路線の存続に JR だけが汗をかけ」と要求する沿線自治体を切ったところで JR は困らない

  鉄道を公共交通機関と見なすのであれば、赤字路線に対する沿線自治体からの支援は必要です。「公共交通機関であるから民間の鉄道会社は赤字であっても輸送能力を維持しなければならない」との主張は通用しません。

  地方交付税を受け取ることが当たり前になっている地方自治体は「国が支えるべき」などと思い上がるでしょうが、都市部で必要なメンテナンス費などを削ってまで地方を優先する経済的合理性はありません。

  また、輸送密度が「1日あたり2000人を下回る」と、旧・国鉄でも第2次基準で『廃止』が検討される水準でした。『利用者の少ない高コスト体質の赤字路線』は国営であったとしても、鉄道でなければならない理由は見当たらないからです。

  過疎化が進行する現在の日本では “地方間での競争” が不可避である現実を直視すべきでしょう。