イギリスよりもオミクロン株の感染拡大が速いので『イギリスでの症例を用いた阿南英明氏の予測』は外れる

  1月6日に開催された厚労省の第66回・新型コロナ感染対策アドバイザリーボードで阿南英明氏が『神奈川県での新型コロナの新規感染者の推移予測』を資料(PDF)として提出しています。

  ただ、この予測は外れることになるでしょう。

  阿南氏は『日本での感染者の増加ペース』を「イギリスで実際に確認された増加率」を基に算出しましたが、実際には南アフリカやイスラエルなど『イギリスよりも高い増加率』で感染者が報告されている傾向があるからです。


阿南氏がアドバイザリーボードに提出した資料

  阿南氏が1月6日に開催されたアドバイザリーボードに提出した資料の中で『新規感染者数の増加シミュレーション』に言及している部分が以下です。

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  内容は「前日比1.4倍(= 2日で2倍)のペースを想定」し、『本年1月2日』を "Day 1" とした場合の新規感染者の増加を図示しています。ただ、この予想は外れることになるでしょう。

  理由は「イギリスではデルタ株による感染拡大で陽性者数が多いことが前提になっていたから」です。イギリスと同様の増加速度になるのは「新規陽性者数が1日あたり1万人に達してから」と考えられます。


世界各国での先行例

  イギリス国内でオミクロン株の感染拡大が先行したロンドンでは感染は収束に向かっています。感染のピークは「クリスマス前」で、年末の時点で実効再生算数Rは1を下回っていました。

  また、昨夏以降は「1日あたり5000人前後の新規陽性者」が発生していため、他の『オミクロン株による感染拡大の発生国・地域』と比較して「急激な増加がなかった」と言える状況にあります。

  したがって、日本の都道府県が参考にするのであれば『南アフリカ・ハウテン州(約1400万人)』や『イスラエル(約930万人)』の数値にすべきでしょう。これらの国や地域では日本と同様に新規陽性者の少ない状況で "Day 1" が訪れたからです。


日本国内の現状

  神奈川県の現状は「東京から数日遅れ」ですから、1月11日頃に『新規陽性者1000人』を超える見込みです。

  阿南氏の予測では『新規陽性者が1000人を超える』のは「1月22日」となっており、それよりも10日ほど早く "Day 21" が訪れることを意味します。

  専門家である阿南氏が問われることになるのは「 "Day 1" が2021年12月21日頃だった」のか「新規陽性者の増加速度が実態よりも低く見積もっていた」のかのどちらであるかを切り分けて予測精度に対する自己評価を行うことです。

  阿南氏は「予測を行なっただけ」と弁明できますが、『阿南氏の提示した予測』を根拠に「強い対策を速やかに採るべきだ」との政治的な主張を行う専門家がアドバイザリーボード内からも現れることが考えられるからです。


『デルタ株による感染拡大時の入院率』は『オミクロン株の蔓延時』でも使える代物なのか?

  阿南英明氏は『要入院者の増加シミュレーション』も計算していますが、これも「使えない代物」です。

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  オミクロン株の毒性は「デルタ株よりも低い」ため、入院率は低くなります。そのため、新型コロナの新規陽性反応者の中で “入院による医療介入が必要な患者” の割合は大きく下がることになるでしょう。

  その一方で岸田政権は「オミクロン株の陽性反応者は原則入院」としています。この方針は専門家も支持していますし、100% が目標になっている『入院率』は有効な指標ではありません。

  特に、要介護者は「入院費が全額公費負担」であるため、身内から「念のために入院させて欲しい(= タダで介護を受けられる)」との “要望” が出るモラルハザードが発生することになるでしょう。



  「パンデミック」だと煽るなら、年齢や医療費負担能力などの指標を基にした『トリアージの基準』が専門家から提言されているはずです。

  そうした最低限の責務を行わず、一般国民の権利を制限することで誤魔化し切ろうとする医療や政治が信頼を失うのは必然と言わざるを得ないのではないでしょうか。