「岸田首相は知らなかった」との理由で『オミクロン株の濃厚接触者は受験不可』を撤回し、政権の責任逃れを図る

 受験生(や大学受験の経験を有する識者など)から批判の声が出た『オミクロン株の濃厚接触者は受験不可』との文科省による通達が「岸田首相は知らなかった」との理由で撤回になったと読売新聞が報じています。

 この問題はこれで幕引きとはならないでしょう。「岸田首相によるオミクロン株への対応方針」が問題の発端ですし、各省庁が首相の知らない内に “暴走” していることは法治国家の観点からも深刻だからです。

 

「やりすぎの方が良い」と感染症法に違反する形で制限を設けようとする岸田首相

 まず、問題の根源は岸田首相の『オミクロン株への対応』です。当人が「やりすぎの方が良い」と(法に反する形で)明言していますし、12月22日には「オミクロン株の濃厚接触者は施設で14日間の待機を要請」しているからです。

 そのため、行政府では以下の『3段論法』が成立することになりました。

  • オミクロン株の濃厚接触者は施設で(14日間の)待機をさせる
    • 受験生Aは『オミクロン株の濃厚接触者』である
      → 受験生Aは「宿泊施設での待機」が必要
      ( ≒ 受験生Aは「大学入試会場へは行けない」)

 厚労省のアドバイザリーボードが「オミクロン株に陽性反応を示した者と空間を共有した者は濃厚接触者」という冗談のような定義を定めていましたが、重症度が高くないオミクロン株に特別対応をしたことがそもそもの間違いです。

 さらに言うと、「新型コロナに特別対応をする」とした初手が間違っているのですから、そこを修正する必要があるでしょう。

 

責任は「官邸の方針に従っただけの文科省」ではなく「方針を定めた岸田首相」にある

 本件の責任は岸田首相にあります。文科省は『官邸の方針』に従って “やりすぎな対応” をしたに過ぎず、『官邸の(新型コロナ対策の)方針』を決めたのは岸田首相だからです。

 そもそも新型コロナ対策の法的根拠である感染症法には第22条の2で以下のように記されています。

(最小限度の措置)
第二十二条の二
 第十六条の三から第二十一条までの規定により実施される措置は、感染症を公衆にまん延させるおそれ、感染症にかかった場合の病状の程度その他の事情に照らして、感染症の発生を予防し、又はそのまん延を防止するため必要な最小限度のものでなければならない。

 法で認められているのは「最小限度の措置」です。にも関わらず、岸田首相は「対策はやりすぎの方がマシ」と法律を無視する発言を行い、(国交相や)文科省が『過剰対策』を打ち出して世間の顰蹙を買ったのです。

 「首相は知らなかった」との弁明が通用する問題ではないことは明らかと言わざるを得ないでしょう。

 

「濃厚接触者に認定された受験生は公共交通機関を使っての移動は不可」の要請も法に違反する

 文科省が提示している “ルール” では「濃厚接触者の場合は公共交通機関を使用せずに試験会場に来場できるのなら受験可」としていますが、これも法(=感染症法)に違反します。

(就業制限)
第十八条 2
 前項に規定する患者及び無症状病原体保有者は、当該者又はその保護者が同項の規定による通知を受けた場合には、感染症を公衆にまん延させるおそれがある業務として感染症ごとに厚生労働省令で定める業務に、そのおそれがなくなるまでの期間として感染症ごとに厚生労働省令で定める期間従事してはならない。

 法律で就業を制限できるのは「患者か無症状病原体保有者」です。濃厚接触者の就業や自由を制限する法的根拠はありません。だから、政府や厚労省は『要請』という形で世間に「濃厚接触者も行動できない」と勘違いをさせているのです。

 最小限度の措置でなければならない『新型コロナ対策』を「やりすぎの方が良い」と行政の長が明言し、行政府が意に沿った行動をしたことによる弊害が散見されているのです。

 続けざまの失政ですから、責任の所在は明確になるべきです。このまま幕引きとなることを容認してはならないでしょう。