昨年の過少死亡を無視する NHK が「お待たせしました、新型コロナ感染拡大で遂に超過死亡の発生です」のノリで煽る

 NHK が21日に行われた厚労省・アドバイザリーボードで示された資料から「超過死亡」の部分だけを抜き出し、「新型コロナ感染拡大の影響か」と強調しています。

 超過死亡への言及があったことは事実ですが、今年4月の数値だけを抜き出して騒ぐのは報道機関として失格でしょう。なぜなら、昨年(2020年)に報告された日本国内での死者数は予想を下回る「過少死亡」の状態だったからです。

 

NHK が報じた記事の内容

 NHK が報じた記事の内容は以下のとおりです。

 分析は国立感染症研究所などで作る厚生労働省の研究班が行い、21日に開かれた厚生労働省の専門家会合で示されました。

 感染症の流行では、間接的な影響で死亡するケースがあることから研究班では、統計的に推計される死者数を実際の死者数がどれだけ上回ったかを調べる「超過死亡」と呼ばれる手法で分析を行いました。

 その結果、流行の第4波で新型コロナウイルスの感染者数が急増していたことし4月、全国の19都道府県で過去4年の同じ月よりも多くの「超過死亡」が出ていたということです。

4月の「超過死亡」 19都道府県で増加 コロナ感染拡大の影響か

 記事に虚偽の内容は含まれてはいないものの「専門家会合」と1次情報源が曖昧に表現されていたり、「2021年4月の死者数のみ」に焦点が合わされていたりと報道としては問題がある内容となっています。

 「新型コロナの感染拡大で超過死亡」と決め付けるのは問題であり、自重すべき報道だと言えるでしょう。

 

NHK が記事で報じていない事実

記事の元ネタは厚労省・アドバイザリーボード

 まず、NHK の記事にある『専門家会合』とは「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」のことです。名称が長いため、NHK だけでなくマスコミ各社が専門家会合と “一緒くた” にしている状態です。

 NHK が取り上げた超過死亡に対する言及があるのは7月21日に開催された第44回で感染研の鈴木基氏が提出した資料(資料3-2, PDF)に記されています。

日本全国での超過死亡数の推移
  • 19都道府県では、2021年4月中の全て死因を含む超過死亡数が例年同時期より多かった
  • 一方で、各県の超過が認められる週が4月最終週に集中
    • 5月以降や死因別データを追って評価し、4月末の超過が新型コロナに関連したものか、偶発的に発生したものかの判断が求められる
  • コロナ流行期以降(2020年1月〜)の全ての死因を含む積算の超過死亡数は、おおよそ流行以前と同規模

 NHK はスライドに示された3項目の中から「今年4月の超過死亡」を強調。「追って評価する必要がある」との記述は『影響か』で済ませ、「積算の超過死亡数は流行以前と同規模」との指摘箇所はスルーを決め込んでいます。

 資料の発表責任者である鈴木氏がそのように主張しているならまだしも、NHK が発表資料のスライドから都合の良い箇所を切り取って “特定の主張” を強調することは問題と言わざるを得ないでしょう。

 

“2020年に昨年よりも多い約140万人が死亡するはずの日本” で死者数はまさかの前年割れ

 次に NHK が無視している前提は「日本での総死者数」です。高齢化が進む日本では死亡者数は毎年2万人ずつ増加するフェーズに入っており、2020年では約140万人が死亡する見込みでした。

 しかし、厚労省が発表した人口動態統計月報年計(概数)によりますと、2020年の死亡者数は137万2648人。2019年は138万1093人でしたから前年より約8500人も少ない死者数です。

 つまり、本来なら死亡していたであろう人が生存している過少死亡が発生しているのです。

 死亡する大部分は高齢者ですから、2020年の過少死亡分に該当する3万人弱は2021年以降に死亡する(= 死者数が上乗せされる)ことになるでしょう。

 2021年は「約142万人の死亡」が統計的に見込まれる状況です。ただ、実際には上述の過少死亡分も加算されるため、年間145万人までの死亡であれば『想定内』として処理されなければならないことです。

 この認識が NHK には欠落していると思われます。

 

「10代後半から20代の死亡率が上がっている」との “パンドラの箱” を開ける勇気がないなら黙ってろ

 死者の総数が減少した2020年の日本で「死亡率が前年よりも2ポイント上昇している年齢層」があることを認識している人は多くはないでしょう。実は15歳から29歳までは『コロナ禍』で死亡率が大きく上昇しているのです。

年齢別に見た死亡数と死亡率

 その原因は『コロナ対策禍』です。

 10代や20代は新型コロナに罹患しても低リスクであり死に至ることは極めて稀です。ところが、新型コロナ罹患が高リスクである高齢者や医療業界を守るための『コロナ対策禍』が直撃し、超過死亡が発生するほどの自殺者の増加が発生しています。

自殺による超過死亡

 30代以下での死亡理由でトップなのが自殺です。この現実がある以上は安易に超過死亡を持ち出すべきではありません。

年齢別に見た主な死因

 死者の大部分が高齢者である新型コロナによる超過死亡を大々的に報じて問題視するなら、死者の大部分が若者である自殺による超過死亡も同様に問題視しなければなりません。

 『社会保障の受益者』と『社会保障の担い手』のどちらが減ると困るかは言及する必要すらないでしょう。受信料ビジネスが当たり前となった NHK も補助金産業と同じで経済の重要性への認識が軽薄になっているのではないでしょうか。