『医療崩壊』で騒ぎたい朝日新聞や一部の医療関係者は「言葉の明確な定義付け」を先にやれ

 朝日新聞が「新型コロナの感染急拡大で医療崩壊」と主張する記事を掲載しています。

 一部の医療従事者が大喜びしそうな記事ですが、問題のある記事と言わざるを得ないでしょう。なぜなら、『医療崩壊』についての明確な定義が存在しないからです。それを無視した煽りは有害なだけです。

 

朝日新聞が報じた記事の内容

 朝日新聞が報じた記事は以下のものです。

 新型コロナウイルス感染症の「第4波」に見舞われ、この春に緊急事態宣言が相次いで出た10都道府県で、少なくとも51人が自宅や宿泊療養施設で亡くなっていた。自治体に朝日新聞が取材した。

 感染の急拡大で医療が逼迫(ひっぱく)し、十分な治療を受ける前の段階で、命が失われていた。専門家は「感染力がさらに強い変異株が広がる『第5波』でも、同様の事態は起こりうる」と警告する。

第4波、自宅などで死亡51人 感染急拡大で医療崩壊

 該当の記事が問題なのは「様々な前提を無視してること」でしょう。言葉の定義すら定めることができていない『医療崩壊』を安易に使うことは慎まなければならない理由があるからです。

 

記事で言及されていない事実

2015年の段階で「4人に1人は病院外で死亡」している

 朝日新聞(や一部の医療従事者)は「病院外で死亡すること」を問題視していますが、統計から「どのぐらいの人が病院外で亡くなっているか」を確認することを怠っています。

死亡数の将来推計

 厚労省の中医協が第411回総会で示した資料(総ー4ー2, PDF)によりますと、2015年の時点で「4人に1人は病院外での死亡」であることが読み取れます。

 つまり、自宅や老人ホームでの死亡は例外ではないのです。また、近年は医療機関以外の場所での死亡が増加傾向との記述もあります。これは「病床数の伸びよりも寿命に達する高齢者数の伸びが多い」場合に起こり得ることです。

 したがって、医療が現役・将来世代が支払っている税金や保険料で賄われているからには受け入れなければならない現実と言えるでしょう。

 

政府は『医療崩壊』の定義すら拒んでいる

 次に本題となる『医療崩壊』ですが、明確な定義は存在しません。これは「医療崩壊に対する政府の認識に関する質問主意書」に対して以下のように答弁しているからです。

 お尋ねの「医療崩壊」との用語については、医療関係者等において、様々な意味で用いられているものと承知している

 (中略)

 政府として定義して用いている用語ではない

岡本充功議員の質問主意書に対する答弁書

 「政府が言う『医療崩壊』の定義は?」との質問主意書に「医療関係者などが様々な意味で用いられている」と答弁したのです。定義を好き勝手に決めていいなら、普段よりも待たされただけでも医療崩壊です。

 このような問題を内包しているのですから、言葉で商売をする報道機関が出す記事としては良いものとは言えないのは明らかです。

 

「本来あるべき医療」との表現を数値など具体的な文言で定義する必要がある

 「『医療崩壊』とは何か?」と問われた医療関係者は「本来あるべき医療ができないこと」と抽象的な回答をするケースが散見されます。これが政府が「様々な意味で用いられていると認識している」と答弁する理由です。

 「医療崩壊」とは救急医療や手術を始めとする「本来あるべき医療ができない」ことです。

医療崩壊とは何なのか 神奈川県医師会

 “本来あるべき医療” の具体的な定義をしていないのですから、何の意味もありません。医療従事者が1人早退したことに対して「本来あるべき医療ができてない」との声が上がれば医療崩壊です。

 中には「病気を患った人が貧富の差によらず、誰でも最高の医療を他国と比較して即座に受けることができる」などと矛盾する理想論を掲げる医師もいるでしょう。この場合だと「日本は常に医療崩壊している」との結論になります。

 

 要するに『医療崩壊』の定義はそれだけデタラメなのです。「新型コロナ感染拡大による医療崩壊」をクローズアップしたいのであれば、まずは言葉の定義を決める必要があります。

 その上で、朝日新聞や一部の医療従事者が「医療崩壊が起きた」とする大阪で「医療崩壊による死者数がどれだけ増えたのかを統計に基づき言及すること」が求められることになります。

 “広義の強制連行” で味をしめた朝日新聞が今度は “広義の医療崩壊” で2匹目のドジョウを狙っている状況だと言えるのではないでしょうか。