新型コロナの恐怖を煽れない数なので重症者の割合で脅そうとする忽那賢志氏

 東京都などでデルタ株による新型コロナ陽性反応者数が増えています。それに乗じて西村康稔大臣と共にコロナ対策を訴える忽那賢志氏が「40・50代で重症者が増えている」と煽っていますが、これは誤解を招く表現です。

 40代や50代の重症者に占める割合が増えているのは高齢者がワクチン接種によって重症化しにくくなった」との事情を加味する必要があるからです。ワクチン接種を勧めるために詭弁と言わざるを得ないでしょう。

 

忽那賢志氏の主張内容

 “くつ王” として執筆活動もする忽那賢志氏が行ったツイートは以下のものです。

 「働きざかりの40代や50代に新型コロナ重症者が増えている」とツイートしていますが、原文に該当する Yahoo! 個人に記載された部分は少し異なります。

 東京都で4回目の緊急事態宣言が7月12日から発令されました。

 徐々にデルタ型変異ウイルスに置き換わり、40代・50代の重症者の割合が増加という傾向がより顕著になってきました。

デルタ型に徐々に置き換わり、40代・50代の重症者が増加 東京都の新型コロナの現状(忽那賢志)

 顕著に増えているのは「割合」です。これを「絶対数が増えている」との誤解を読者に抱かせるツイートをするのは “正確な情報” を発信することが求められる医療従事者としてあるまじき行為と言わざるを得ないでしょう。

 

事実

40代や50代が重症者に占める割合が大きくなったが、絶対数で見ると異なる現実が浮かび上がる

 忽那氏が言及していることに嘘はありません。デルタ株による感染拡大が広がった東京都で40代や50代が重症者に占める割合が増えていることは事実だからです。

東京都内の年齢別重症者の割合

 2021年7月以降、東京都から報告された50代以下の重症者は全体の 40% を占めています。5月の第4波では 30% ほどでしたから割合は増加しています。ただ、絶対数で見ると危機感を煽るのは明らかに不適切です。

東京都内の年齢別重症者数

 絶対数で見ますと、東京都では60歳以上の重症者数は増えています。その一方で50代の重症者数は「7月4日から10日の1週間がピーク」という状況にあり、それが再び増加に転じる可能性は高くありません。

 増加に転じるには「50代の新規重症者が増え続けること」が前提となるため、現実的には起こり得ないと断言できるからです。

 

(60歳以上の)高齢者が重症者に占める割合が減ったのなら、リスクは相対的に低下したことになる

 次に、高齢者の重症者に占める割合が下がったことは歓迎すべきでしょう。なぜなら、ハイリスク群の死亡リスクが下がったことになるため、事態は改善したと言えるからです。

 理由は「高齢者と医療従事者へのワクチン接種」が大きな要因です。

7月15日のモニタリング会議で示された都内の新規陽性者数

 7月15日の東京都モニタリング会議で発表された資料から「60代以上の医療機関や高齢者施設での新規陽性者はほぼいない状況」であることが分かります。

 第4波が起きていた2021年4月末の段階では「80代以上の主要感染経路は医療機関や高齢者施設」という現状でした。その時と比較すると大きな違いを見てとることができるでしょう。

4月28日のモニタリング会議で示された都内の新規陽性者数

 要するに「医療機関と高齢者施設でのクラスターが重症者病床を埋める原因となり、それを理由に一部の医療従事者が医療崩壊が起きるから自粛をしろ」と要求していたことが統計データから浮き彫りとなりました。

 その責任を問う声が今後大きくなる可能性があることから、上から目線など放漫な態度は今のうちに改めておいた方が良いと思われます。

 

『都が発表する重症者数』が増えるには「新規重症者数が増え続けること」が前提

 余談となりますが、「50代の重症者数は増えない」と言う根拠に触れておきます。

 まず、東京都が発表している重症者数は「現在入院中の重症者数」です。「新たに重症者となった患者数」ではありません。そのため、東京都内での年齢階層別の重症化率を算出することは(外部の人間には)不可能です。

 ただ、「現在入院中の50代重症者数は増えない」とは言えます。

 入院中の重症者数が増えるには「『新規重症者数』が『回復者と死者の和』を上回り続けること」が条件です。新たに5人が重症化しても同日に4人回復・1人死亡すれば、『入院中の重症者数』は不変だからです。

 重症化率は変異株による差はありますが、感染拡大期と収束期で変わることはありません。つまり、「50代の陽性者数が倍増し続ける」ことが起きないのなら、どこかで「『新規重症者数』=『回復者と死者の和』」となってしまうのです。

 50代では「平均で2週間もあれば重症から回復する」と見積もれますし、これは厚労省アドバイザリーボードでも言及された平均値です。

 そのため、重症者の割合で新型コロナの恐怖を煽ろうとしても逆効果になるだけでしょう。

 

 ワクチン接種率が国民全体の 60% を超えるイスラエルやイギリスでは日本よりも人口当たりの陽性者数は多いのです。政治が「ワクチン接種者の重症化をある程度防げる」との事実で満足し、重症者数や死者数に基準を変更すべきではないでしょうか。