新型コロナ対応に脆弱すぎる医療体制の増強を訴えない専門家が抱く『危機感』を市民は共有しない

 厚労省の新型コロナ対策アドバイザリーボードで座長を務める脇田隆字氏が7月28日に行われた会合後の記者会見で「このままでは助かる命も助からない」と警告を発しています。

 しかし、市民に『専門家が抱く危機感』が共有されることはないでしょう。なぜなら、医療側が「やるべきことをやってないから」です。危機感が欠如しているのは脇田氏などの専門家や医療業界だからです。

 

 専門家組織の脇田隆字座長は会合後の記者会見で、緊急事態宣言について、「効果が出ているとは言いがたい」と指摘。医療への負荷が高まっているとし、「このままの状況が続けば、通常であれば助かる命も助からない状況になることも強く懸念される。こうした危機感を行政と市民が共有できていないことが現在の最大の問題」と述べた。

専門家「経験ない拡大」指摘;朝日新聞

 

欧米よりも1桁少ない感染者数で医療崩壊すれば恥以外の何物でもない

 まず、脇田氏などの専門家は「『日本の新型コロナ感染状況』と『世界の感染状況』の比較」をすべきです。これを怠っているから、世間と危機感を共有できないのです。

 日本は欧米よりも1桁少ない感染状況なのです。これで医療崩壊を起こすのであれば、恥以外の何物でもありません。なぜなら、日本は「ベッド数は欧米よりも多く、臨床現場の人員は欧米と同水準」と示されているからです。

医療提供体制の国別比較

 出典は財務省・財政制度分科会で用いられた資料です。

 現場の医療資源は『欧米に匹敵する水準』なのです。“欧米と同じ医療提供基準” を適用すれば、同じ感染状況までは耐えられるはずです。

 欧米より1桁以上も少ない感染者数で医療崩壊をするなら、「医療資源の配分を間違えた」か「現場が信じられないほど低レベル」のどちらかが原因です。その責任を世間に転嫁しようとする専門家の姿勢は大問題と言わざるを得ないでしょう。

 

“自粛のコスト” は現役世代が支払うことを強いられている

 次に、新型コロナ対策の専門家が抱く危機感が世間に共有されないのは「コストの概念が欠落していること」も無視できません。専門家は「人流の削減」を効果的な対策として打ち出して自粛を呼びかけていますが、これも問題があります。

 自粛による恩恵を受けられるのは社会保障の受益者である高齢者や医療業界なのです。

 彼らは自粛で経済が落ち込んでも収入は変わりません。高齢者は「年金」が主たる収入源であり、医療は「(現役世代が負担する)診療報酬」が約束されているからです。

 一方で社会保障の担い手である現役世代は「自粛のコスト」の負担も強いられる状況にあります。

 厚生労働省は雇用保険の保険料率を引き上げる検討に入る。新型コロナウイルス感染拡大で雇用調整助成金の給付が増え、財源が逼迫しているためだ。国費投入のほか、企業や働く人の負担も増える。

雇用保険料引き上げ、22年度にも 雇調金増大で財源不足

 専門家が求めている対策は「シルバー・デモクラシーの中で現行の医療制度を守るためのもの」であることは明らかです。

 “民間企業で働く現役世代” は負担だけを押し付けられる立場です。そのため、自らの生活を投げ打ってでも感染対策に協力する人が少なくなるのは必然と言えるでしょう。

 

「助かる命も助からない状況になる」と言う前に重症者数の推移を確認すべき

 最後に脇田氏は「通常なら助かる命も助からない状況になる」と脅していますが、このような滑稽な主張は世間から失笑を買うだけです。

 1年3ヶ月前の2020年4月の「何もしなければ42万人が死亡する」から始まり、その予測を立てた西浦氏は「都内での重症者数は数百人に達する」と今月に煽る有様です。現時点での都内の重症者数は約80名ですから現実が見えていないのでしょう。

 『今年1月に記録した都内での重症者数』の半分にすら満たない水準で「助かる命も助からない状況」とはどういうことなのでしょうか。発言があまりに適当すぎます。

 また、医療従事者へ新型コロナのワクチン接種は原則完了しているはずであり、医療の提供能力は今年1月と比較して格段に上昇しているはずです。医療従事者が優先接種の対象になった理由を少しは考えなければなりません。

 「助かる命も助からない」との言葉が “世間に対する説得力” を持つのは『欧米と同様の新型コロナ感染状況』に日本が見舞われた後です。

 

 欧米よりもマシな水準では「医療の怠惰によって助かるはずの命が助からなかった」と世間から見なされてると自覚しなければなりません。その上でリスク・コミュニケーションの方法そのものを見直す必要があるのではないでしょうか。