「2020年の死者数が予想値より約3万人少なかった」との事実を無視して「2021年の死者数が前年よりも大幅増」と報じる日経新聞

  日経新聞が「コロナ禍の余波で死者数が急増している」との記事を掲載しています。ただ、この記事には注意が必要です。

  2020年の死者数は予想を大きく下回ったことに加え、日本は高齢化で死者数は毎年2万人ずつ増える状況だからです。懸念を示すなら、コロナ対策禍で20代以下の若者世代で自殺者が増えている現実に対してでしょう。


今後の日本で予想される死者数の推計値

  日本の将来推計人口は『国立社会保障・人口問題研究所』が発表しています。

  2019年までの死者数は「推計の中位」で移行していましたが、コロナ禍に見舞われた2020年の死者数は「推計・中位を約3万人下回る137万人」でした。この前提を無視した超過死亡の議論は無意味です。

  なぜなら、高齢化が進行する日本は「死者数が毎年2万人ずつ増える状況が続く」からです。したがって、『2020年に死を免れた人数』と『死者の純増分』を合わせた数値が基準になるのです。


2019年以降における年間死者数の推計値と実数値

  2019年の年間死者数は「推計・中位」と同数でした。2016年から4年間は「推計・中位」でしたし、これを基準にすることは妥当と言えるでしょう。

  しかし、2020年は「推計(中位)を約3万人も下回る例外」が発生しています。

  2021年は9月までの累計で推計(中位)だと106.4万人。実数だと106.6万人と平年値の範囲内に収まっています。そのため、超過死亡で煽るのは『基準値の設定』に問題がある思われます。


月別死者数の推計値と実数値

  2020年の死者数が少なかった理由は「2020年の上半期での死者数が『推計・低位』で推移したから」です。下半期は「『推計・中位』で推移」しました。

  2021年の死者数を確認すると「1月から3月の死者数は『推計・低位』」でしたが「5月と8月・9月に『推計・高位』の死者数を記録」しており、結果として9月までの累計死者数が『推計・中位』と同数になっています。

  2020年に『推計・低位』だったことで “浮いた死者数” は残ったままであり、その分が上乗せされる未来がいずれ訪れると覚悟しておく必要があるでしょう。


人口10万人あたりの年齢別・性別の自殺者数

  むしろ問題となるべきは「2020年に若者の自殺者数が増えてしまったこと」です。

  上記のグラフは「人口10万人あたりの年齢・性別の自殺者数」です。少子化で対称群の絶対数は減少している状況にありますが、『人口比で見た若者の自殺者数』は2020年の数値が悪化しています。

  特に「30代以下の女性」が前年よりも大幅に悪化しています。また、そもそも数値が芳しくない男性も状態が推移してしまっており、これは懸念すべき点と言わざるを得ません。


  コロナ禍で「高齢者の死者数が前年割れ」という異常事態が発生している裏で、「若者がコロナ対策禍を苦にした自殺で命を絶っている現状」が厚労省の人口動態統計で語られているのです。

  医療関係者を中心に「経済よりも命」との声がありましたが、実態は「『経済や若者の命』よりも『高齢者の命』」でした。高齢者や医療関係者はコロナ対策費を若者(や現役世代)に押し付けているのです。偽善者を讃えるべきではありません。