こびナビ副代表・木下喬弘氏、「新型コロナワクチンは原則接種すべき『努力義務』がある」と『任意接種』を否定するミスリード

 手を洗う救急医として知られる木下喬弘氏が「新型コロナワクチン接種は接種義務がある」との誤解を招くツイートをしています。これは「悪質なミスリード」と言わざるを得ません。

 新型コロナワクチン接種は「義務ではない(=任意)」であると厚労省が認めています。「あくまでも本人が納得した上で接種を判断する」のですから「原則接種すべき」との主張がデマと批判されても文句は言えないでしょう。

 

木下喬弘氏が行ったツイートの内容

 木下氏が行ったツイートは以下のものです。

 木下氏は「新型コロナワクチンは原則接種すべきが国の方針」と主張していますが、これは木下氏の自己解釈で事実ではありません『受けたくないなら別に受けなくてもいいワクチン』なのです。

 詭弁を弄してまで新型コロナワクチン接種を促す姿勢は反感を買うだけであることを自覚する必要があるでしょう。

 

木下喬弘氏が触れない『努力義務』の実態

1: 厚労省が説明する『努力義務』の意味

 最初に厚労省が「新型コロナワクチンの『努力義務』をどのように定義しているのか」を確認する必要があります。これはウェブ上で公開されています。

 今回の予防接種は感染症の緊急のまん延予防の観点から実施するものであり、国民の皆様にも接種にご協力をいただきたいという趣旨で、「接種を受けるよう努めなければならない」という、予防接種法第9条の規定が適用されています。この規定のことは、いわゆる「努力義務」と呼ばれていますが、義務とは異なります。接種は強制ではなく、最終的には、あくまでも、ご本人が納得した上で接種をご判断いただくことになります。

 『努力義務』と呼ばれてはいるものの『義務』ではないのです。強制力はありませんし、最終的には “本人が” 納得した上で接種するかを判断するワクチンです。

 厚労省は「(木下氏が主張する)原則接種すべき」との立場を採っていません。その事情を医師である木下氏は知っていなければならないことでしょう。

 

2: 『接種義務』の時代に起きた健康被害の責任から逃れるために『努力義務』に後退

 かつての予防接種法では『義務規定』が定められており、それに基づく運用がされていました。

 しかし、体質などが理由で “ワクチン接種を回避すべき人” にまで強制的に接種したことで健康被害が発生。ワクチン接種を強いた厚労省の責任問題に発展し、責任を負いたくない厚労省が1994年の法改正で『努力義務』に変更した経緯があります。

 “本人が” 納得した上でワクチン接種をしたのであれば、厚労省が『副反応や副作用による健康被害の責任』をすべて背負うことから解放されます。

 これは「厚労省は接種を勧めたが最終的に接種を決めたのは本人(またはその保護者)。行政として接種判断に必要な情報の公開および発信はしていた」と主張できるからです。

 『接種義務』の復活を望むのなら、木下氏など賛同者が厚労省に代わって責任を負うべきです。民事訴訟で億単位の慰謝料請求を起こされるリスクを背負うことのない安全な立場から「原則接種すべき」と主張するのはあまりに無責任でしょう。

 

3: 『終生免疫が得られないワクチン』は定期接種の対象ではない

 また、木下氏は厚労省が分類する『定期接種』と『任意接種』を持ち出して「『定期接種』は任意ではない」と主張していますが、これも単なる詭弁です。

 厚労省が言う『定期接種』は「(全額公費負担なのだから定められた期間内に)誰もが受けるべき」の意味であり、「誰もが受けなければならない」ではありません。

 要するに「接種を受けるべき時期が定まっている」から『定期接種』なのです。『定期接種』を受けそびれた場合や受ける機会がなかった場合は『任意接種』になるのですから、言葉遊びに過ぎません。

 木下氏はおそらく意図的に言及を避けていますが、(ポリオ・結核・麻疹・日本脳炎など)『A類疾病』の予防接種では終生免疫が得られます

 A類疾病は予防接種法に基づく『定期接種』の対象になっていますが、新型コロナワクチンを接種しても終生免疫を得ることは現時点ではできません。この点では『B類疾病』に用いられるワクチンと接種効果は同じです。

 「新型コロナワクチンの接種に要する費用が全額公費負担なのは『定期接種』と同じ扱いであり、接種についても『定期接種』と同じにすべき」との主張は接種効果を無視したものです。この部分が批判されていることを木下氏は気づくべきでしょう。

 

 新型コロナワクチンの『定期接種』を正当化したいのであれば、接種の費用対効果を数字で提示すべきです。

 子宮頸がんを防ぐ『HPVワクチン』が全額公費負担となる定期接種は「高校1年生の9月までに初回接種を開始すること」が条件です。その期間を過ぎると『任意接種』で有償になる “線引き” がされているのが実情です。

 新型コロナワクチンの接種効果は『HPVワクチン』よりも短期間なのですから、新型コロナワクチンが『定期接種』の対象に値する証明がされていない状況下で「接種義務がある」との誤解を招く言動は大きな問題なのではないでしょうか。