イスラエル、重症者数が『倍々ゲームで800人』は回避も『10日で200人増が継続して700人弱』に到達

  8月初旬にベネット首相が「20日ほどで重症者が800人に達する恐れがある」と表明したイスラエルですが、「倍々ゲームで入院中の重症者が800人に到達することは回避」されました。

  ただ、10日で重症者が200人増加するペースは続いており、入院中の重症者数が700人弱となっています。「厳しい状況に直面していることに変わりはない」と言わざるを得ないでしょう。


重症者や死者数の現状

重症者数の推移

  ベネット首相が懸念を示した重症者数ですが『倍々ゲーム』は回避されました。8月11日に「重症者数400人」で8月初旬の2倍にはなったものの、同23日の重症者数は「700人弱」だからです。

  つまり、西浦氏などが主張する「指数関数的な増加」は感染爆発中のイスラエルでさえ発生していないのです。

  実際に起きているのは「10日で重症者数が200人ずつ増加」という『一次関数』です。西浦氏などが言っている『指数関数』は『二次関数』よりも増加分が多いため、机上の空論として却下されるべき代物でしょう。

死者数(7日間平均)の推移

  ベネット首相が言及した『最悪の状況』は回避したものの、イスラエルの現状は極めて深刻です。なぜなら、死者の7日間平均が「昨夏の2倍」という状況が8月下旬以降は続いているからです。

  イスラエルの人口は約925万人です。イスラエルでの「1日あたりの死者20人強」は日本では「死者250人」に該当します。“未成年を除くほぼ全国民にワクチン接種が完了した状態” での数値ですから、現実を直視して受け入れる必要がと言えるでしょう。


今後の見通し

新規陽性者数と実効再生産数

  今後の感染状況は「楽観視するには時期尚早」と見なすべきでしょう。

  • 感染拡大が続く要因
    • 9月はユダヤ新年・贖罪の日・仮庵祭と祝祭日が多く存在
  • 感染拡大が収束に向かう要因
    • 8月から始まったワクチンの3回目接種
    • (デルタ株の)感染蔓延による自然収束

  まず、イスラエルでは9月にユダヤ教の祝祭日が多く存在しており、通常よりも人出や活動は活発になると予想されます。宗教行事を中止にすることは非現実的ですから感染が続く要因は残ったままです。

  一方で感染が収束に向かう要因もあります。1つ目は「ワクチンの3回目接種が効果を発揮した場合」、もう1つは「自然収束」です。

  8月初旬から高齢者を中心に3回目のワクチン接種をしたにも関わらず、新規感染者数や重症者の増加ペースは維持されています。そのため、ワクチン接種効果よりも自然収束の期待値の方が大きいと思われます。

  ブースター効果が得られるにしても半月先(の9月上旬頃)になると予想されますし、その頃には自然収束が生じている可能性があります。どちらの理由で収束となったのかを見極めが鍵となるでしょう。

入院中の重症者数(2021年8月25日時点)

  人口比で見た場合から「ワクチン接種による有効性」を訴える声が強まると予想されますが、イスラエルの場合は「50歳以上の各年齢層の1回目ワクチン接種率は 90% を超えている」ことに留意が必要です。

表: イスラエルの年齢別人口とワクチン接種率
人口1回目接種率未接種者
90歳超 5万人94.2%2900人
80代 22万人94.6%1万1800人
70代 45万人96.1%1万7550人
60代 73万人91.5%6万2050人
50代 83万人90.5%7万8850人

  高齢者で新型コロナワクチンを接種していないのは 5% ほど。これは今夏の前から変わっておらず、彼らは「接種できない何らかの理由を抱えている」と見るべきでしょう。

  「ワクチン接種に耐えられない虚弱体質」や「宗教上の理由」がその要因として考えられるからです。

  『集団免疫』はそうした特殊な事情を持った国民を守るために狙いがあったはずですが、期待された効果が現れているとは言えません。ワクチン接種者は(絶対数の少ない)80代の方が70代より重症者数が多いことも気になる点です。

  重症の高齢者は死亡リスクが高いため、イスラエルから報告される新型コロナによる死者数はしばらくの間は高い水準となるでしょう。イスラエル国内で開発が進む治療薬の効果と共に今後の行方を注視する価値はあると思われます。