出来もしない感染制御より「制御可能な医療体制の整備」に東京都は尽力すべき

  東京都の新型コロナ対策アドバイザーを務める大曲貴夫氏が「新型コロナは制御不能な状況で災害レベルで猛威を振るう非常事態」と言及したとNHKが報じています。

  この主張は思い上がりも甚だしいでしょう。なぜなら、ウイルス感染を制御することは実質的に不可能だからです。新型コロナの感染拡大を制御できるなら、RSウイルスによる感染拡大の制御も可能です。

  両ウイルスの感染防止対策が同じであることが理由です。できないことに挑むのではなく、「医療体制の整備」という「『できること』をするよう提言すること」がアドバイザーの役割と言えるでしょう。


東京都のモニタリング会議で、専門家は、「かつてないほどの速度で感染拡大が進み、制御不能な状況で、災害レベルで感染が猛威を振るう非常事態だ」と指摘したうえで、「医療提供体制が深刻な機能不全に陥っている」として極めて強い危機感を示しました。

東京都内の感染“制御不能な状況 災害レベルの非常事態”


イスラエルなど他国の感染状況と比較した上で言及すべき

  大曲氏は東京都のデータしか確認していないのでしょう。例えば、人口が東京都よりも少ないイスラエルと比較すると興味深い事実が浮き彫りとなります。

  東京都とイスラエルは7月中旬は似たような新規陽性者数でした。

  しかし、東京都は7月末から8月初旬に感染が急拡大。実効再生産数Rは1.7近くにまで跳ね上がっています。ただ、その後はRの数値が減少の一途を辿り、8月12日には R=1.1 ほどに下がっています。

  一方でイスラエルは「7月中旬以降は R=1.4 ほどで推移」しており、1日の新規陽性者数は6000人を超える日もある状況です。『制御不能な状況』という表現を用いるのであれば、イスラエルの事態を指すために使うべきと言えるでしょう。


東京より感染状況が深刻なイスラエルから「医療崩壊が起きた」とのニュースは聞こえてこない

  大曲氏は「医療提供体制が深刻な機能不全に陥っている」と主張していますが、東京都よりも新型コロナの感染状況が深刻なイスラエルから同様のニュースが報じられたことはありません。

  その理由を探り、日本の行政(や世論)に提示・提言するのが大曲氏ら専門家の役目でしょう。

  実際には『イスラエルの医療提供体制が深刻な機能不全に陥っている』なら、それを反面教師にすべきです。逆に『イスラエルの医療提供体制が(東京よりも深刻な新型コロナ感染状況の中でも)機能している』のであれば、それを手本とすべきです。

  この役割を果たしてくれるから専門家には価値があるのです。東京都に報告される日々の新規陽性者数を見て右往左往するだけなら誰でもできます。専門家としての貢献ができない人物の “私見” で人権が制限されるなど絶対にあってはならないことでしょう。


そもそも新型コロナのようなウイルス感染の制御は可能なのか

  また、感染症対策は「原因となっているウイルス感染の制御は可能なのか」という確認行為を頻繁に行う必要があります。なぜなら、人間が採用する対策では効果が得られないケースが珍しくないからです。

  RSウイルスがその代表例でしょう。

  RSウイルスによる患者は乳幼児が大部分で、時には重症化する場合があります。予防策は「手洗いなど新型コロナ対策とほぼ同じ」なのですが、2020年の患者数は「ほぼゼロ」の状況でした。

  しかし、2021年春以降に感染爆発。東京都では「2019年の約3倍」もの患者が報告され、これは直近の10年では見ない高水準でした。

  もし、ウイルス感染の制御が可能であるなら、第5類であるRSウイルスの感染制御は容易だったことでしょう。ですが、現実には「感染爆発」となりました。このことから『感染制御』は夢物語と言わざるを得ません。

  ただ、医療体制は制御可能です。だから、「医療提供体制を効率化することに尽力すべき」との声が世間で根強く起きることになるのです。


  アドバンスをする専門家なら、重症化率や致死率を踏まえた上で提言を行うべきでしょう。現状では「(税金や保険料による保護産業である)医療業界の利権維持に奔走する代弁者」と変わりありません。

  世間からの信頼を失っていることに危機感を持つ必要があると思われます。