日本国内における超過死亡の簡易的な確認手法

  日本で新型コロナの感染拡大が発生したことで『超過死亡』にスポットライトが当たることがあります。

  超過死亡は「どう定義するか」で程度に違いは生じる問題はありますが、一般で用いるなら『簡易的なもの』で十分でしょう。ここでは『簡易的な確認手法』を紹介します。


超過死亡とは

  まず、超過死亡は「『特定の母集団』の死者数が一時的に増加し、『本来想定される期待値』の “取り得る信用区間” を超過したこと」を指します。

  言葉として用いられる際に『超過死亡率』との表現が多いのは「“取り得る信頼区間” を超過したかはパーセンテージで判断しているから」です。この部分を絶対値で評価できる事例は多くないため、『率』を用いるのが一般的となっています。

  用いられるアルゴリズムには『Farrington』と『EuroMOMO』の2つが代表的ですが、日本国内の死亡者を対象にする場合はそれらを用いる必要はありません。使わずとも算出できるからです。

  では、実際に確認していくことにしましょう。


日本で超過死亡は発生しているのか

  超過死亡を確認する際に重要となるのは『特定の母集団』です。「日本で超過死亡が発生していたか」を確認する際に設定すべき母集団は『全日本国民』でしょう。

  日本国内での死者数の『本来想定される期待値』は(国立社会保障・人口問題研究所が発表する)『将来推計人口の死亡中位』です。この数値は政府や省庁が用いるものですから、基準からどれだけ逸脱してるかを確認することで目的は果たせます。

  それをグラフ化したものが以下になります。


年間での死亡推定数と実測値

  少子高齢化の日本は「死者数が(2040年頃まで)毎年2万人ずつ増え続ける」と予測されており、2019年までは『将来推計人口の死亡中位』で示された期待値と「ほぼ同数」で推移していました。

  2020年は予測では「141.4万人が死亡」と想定されたのですが、2019年の時点で「予測より1万人少ない約138万人が死亡」でした。そのため、2020年は約140万人が死亡することが期待値と言えるでしょう。

  しかし、新型コロナによるパンデミックが発生したはずの2020年の死者数は137.3万人と期待値を大きく下回っています。これが「過少死亡が起きていた」と言われる根拠です。

  死者の実数値は厚労省の人口動態統計から確認が可能です。『年間死者数』だけではなく『月別の死者数』も発表されているため、より細かい条件で「超過死亡が起きていたか」を把握することも難しくはありません。


月別の死亡推定数と実測値

  月別の死亡推定数と実測値をグラフ化したものが以下です。

  「各月の死者数」は人口動態統計で公表されているため、「各月の死者数が年間死者数に占める割合」は算出できます。(2010年から2019年までの10年平均だと1月は 9.91%、2月は 8.64% という具合です)

  しかも『人口動態統計・速報』は2ヶ月後に公表されます。2021年6月分は「2021年8月下旬に公表」されますから、状況を速やかに把握する上では非常に使い勝手が良いと言えるでしょう。

  月別の死者数で見ると、2020年が過少死亡だった要因がより鮮明になります。2020年上半期は死者数が『低位』で推移し、下半期は『中位』だったからです。

  当時は新型コロナの実態が不明瞭で多くの人が自粛や接触削減を徹底しました。これが「(絶対数の多い)高齢者の死者」を減らす要因となり、過少死亡に至ったのでしょう。

  逆に NHK が「2021年5月に(新型コロナによる)超過死亡が起きた」と報道した理由は「今年5月の死者数が『高位』に達する水準だったから」です。


  とは言え、2020年に本来なら死亡するはずだった人のマイナス分は残ったままです。人間は不老不死ではないため、いずれは寿命が来て死者数は “清算” されることになります。

  したがって、一部の期間だけを抜き出して騒ぎを起こすべきではないでしょう。