こびナビ副代表の木下喬弘氏、データ抽出期間に問題がある論文を用いて「デルタ株にもワクチンは有効」との主張を展開
ワクチン接種担当となっている河野太郎大臣の実質的なブレーン役である『こびナビ』で副代表を務める木下喬弘氏が「デルタ株にもファイザー製のワクチンが有効であることを示す論文が発表された」とツイートしています。
しかし、このツイートには問題点があります。なぜなら、根拠となっている論文のデータ抽出期間が不適切だからです。そのため、ワクチン接種を勧めるためのミスリードとの批判は避けられない状況が生じる恐れがあります。
木下喬弘氏によるツイートの内容
木下氏が行ったツイートは以下のものです。
変異ウイルスデルタに対するファイザー製ワクチンの有効性が88%という論文がNEJMに出ました。
— 手を洗う救急医Taka(木下喬弘) (@mph_for_doctors) 2021年7月21日
信頼区間も85 to 90%と比較的狭いです。
Effectiveness of Covid-19 Vaccines against the B.1.617.2 (Delta) Variant | NEJM https://t.co/3fIxXya7cN
「有効性は 90% 弱」との結論は事実と認定されるでしょう。問題は「結論を導き出すためのデータ抽出期間」にあるからです。
木下喬弘氏がツイートでは言及していない問題点
該当の論文は2021年5月16日以前のデータに基づく内容
まず、木下氏がツイートに用いた論文は NEJM (The New England Journal of Medicine) に投稿されたものです。その内容を確認しますと、論文作成に用いたデータ抽出期間として以下の記述があります。
SARS-CoV-2 Testing
Data on all positive PCR tests between October 26, 2020, and May 16, 2021, were extracted.
要するに該当の論文は「2021年5月16日以前」のデータを基に作成され、2021年7月21日に公表されたものです。
この期間であれば「ファイザー製ワクチンはデルタ株に 88% (、アストラゼネカ製だと 70% 弱)の有効性」があると言える代物です。問題なのは「2021年6月以降」に状況が “一変” したことでしょう。
なぜ、デルタ株の感染拡大が起きた2021年6月以降の数値を無視するのか
Our World in Data など世界各国での新型コロナ陽性者数の推移を確認できるサイトにアクセスすれば、木下氏のツイートに含まれた問題点は浮き彫りとなります。
イギリスでは2021年5月中旬は新型コロナ陽性者数は「底値」です。『底値を記録した時点までの陽性者数とワクチン接種数』を基にした論文を作成すれば、「ワクチン接種の効果が極めて高い」との結論を書くことは容易と言えるでしょう。
しかし、ファイザー製ワクチンの接種が世界で最も進んだ国であるイスラエルでもデルタ株による感染拡大が(2021年7月に入ってから)深刻になっています。これらの事実から目を背けたツイートは問題視されるべきものです。
木下氏などが主張する「感染予防効果」が有効率 88% の新型コロナワクチンに備わっているなら、今年1月の同程度の陽性者数をイギリスなどで記録することはないでしょう。
ワクチンを『万能薬』として振りかざすのは接種の推進に逆効果をもたらす原因になります。幸いなことにイギリスやイスラエルでは重症者数(や死者数)は冬季とは比較にならないほどの低水準です。
こちらのメリットを丁寧に説明した方が結果として接種率は高まるのではないかと思われます。ミスリードに基づく接種効果の強調は逆効果であることに留意すべきです。