『グリーン GDP』の制定を目指す前に「基幹統計の書き換え問題の原因である人員不足」を解決すべき
内閣府が環境への負荷を踏まえた経済成長指標である『グリーン GDP』を作ろうとしていると NHK が報じています。
2021年の夏頃から『グリーン GDP』の制定に向けた動きが報じられていましたが、その前にやらなければならないことがあります。人員不足を理由に基幹統計の書き換えが常態化していたのですから、まずは人材育成が必要です。
また、『グリーン GDP』は環境面に恣意的な配慮をする指標であり、「政府によるカーボンニュートラルへの補助金拠出で『グリーン GDP』は成長」と “政治利用” されることは火を見るよりも明らかと言えるでしょう。
社説で「『グリーン GDP』で経済の歪みを見直そう」と主張した朝日新聞
岸田政権が導入を本格化させようとしている『グリーン GDP』は朝日新聞が2021年9月17日付の社説で好意的に取り上げています。
大気や水質を汚染しても、その負の価値はGDPから引かれない。それどころか、汚した大気を浄化するための投資をすれば、需要が増えてGDPは大きくなる。
この矛盾を改善する一助として内閣府が研究しているのが、グリーンGDPだ。例えば、通常のGDPの成長率を、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出で成長した分で調整する。
グリーンGDPで、環境負荷を「見える化」できれば、温暖化対策で成長が鈍化しても、社会が受け入れやすくなる。毎年数値を公表できないか、前向きに検討してほしい。
「温暖化対策で生活が苦しくなっても環境問題を優先する姿勢は世間一般に理解されるだろう」と朝日新聞は主張しているのです。
この主張が通用しないのは言うまでもありません。なぜなら、二酸化炭素を排出するガソリンなど石油資源価格の高騰に対して「このままでは生活できない」と社会から受け入れられていない現実があるからです。
『グリーン GDP』は官僚や朝日新聞など “リムジン・リベラル” の仲間内で評価される指標に過ぎないでしょう。
人手不足で基幹統計を書き換えた官僚機構が『新指標』の制定を模索中
仮に『グリーン GDP』が “完璧な指標” だったとしても、統計を扱う官僚機構が「人手不足」を理由に基幹統計を書き換える問題を起こしているのです。
少なくとも、検証委員会が提言した再発防止策が機能するまでは『グリーン GDP』の制定は凍結すべきでしょう。統計を使う側に問題があっては効果が期待できないからです。
- 検証委員会による報告
- 慢性的に業務が過剰な状態で、一部の職員に業務が集中
- 人事政策において統計業務が軽視されていたと見受けられる
- 業務の重要性を認識した上で十分な数の人材を適切に配置を
- 職員が統計についての十分な知識をもっていなかったことがあるとも考えられる
- 職員が統計に関する十分な知識を学ぶ機会を設けるべき
- 統計の専門家に疑問や問題を気軽に相談できる体制の構築を
新型コロナ対策でも「統計」はガン無視されていました。今後も統計は軽視され続けることになると予想されます。
「煙害が指摘されている薪ストーブ」は『グリーン GDP』で評価されるのかに興味がある
『グリーン GDP』による評価で興味深いのは「薪ストーブ」でしょう。朝日新聞などは SDGs の文脈で薪ストーブを好意的に取り上げていますが、問題点を都合良く伏せているからです。
その理由は排煙による環境への悪影響です。山形県が2018年5月に『県の取組状況』として以下の回答をしています。
工場などの煙突からの煙につきましては、大気汚染防止法等に基づき排出ガス濃度の基準を設けて規制しているところです。一方、一般家庭における薪ストーブからの煙やその臭いについては、法的な規制がありません。
しかしながら、法的規制が及ばない状況であったとしても、煙突からの煙などで近隣から苦情がある場合には、何らかの調整が必要と考えられます。
薪ストーブからの排煙には法的な規制が存在しないのです。“木材の煙” は大気汚染を引き起こす原因となっており、世界で数百万人が毎年死亡しています。
そのような事情と不便さが薪ストーブが廃れた理由です。にも関わらず、先祖返りを正当化しようとする姿勢は問題視されなければならないことでしょう。
政府は「脱炭素で経済成長」と主張しているため、『グリーン GDP』が制定されると官僚が政府の方向性に “忖度” した統計が示されたとしても不思議ではありません。政治家への転身を狙う官僚は歩調を合わせようとするでしょう。まずは統計を適切に扱う体制構築が重要と考えられるからです。