公明党の公約(=出産一時金50万円に増額)に呼応し、岸田首相が「私の判断で出産一時金を大幅増額」と表明

  通常国会が閉会した6月15日に行われた記者会見で岸田首相が「私の判断で出産一時金を大幅に増額する」と表明したと共同通信など各メディアが報じています。

  これは明らかに参院選を意識した発言でしょう。4日前の6月11日に公明党が「出産一時金を50万円に増額する」と公約で発表していたからです。

  ただ、出産一時金の原資は “現役世代が支払っている健康保険料” です。通常分娩は(医療機関側に価格の決定権がある)自由診療であり、出産費用はすぐに上昇し、現役世代から産婦人科への所得移転が強まる結果になるでしょう。


6月3日の参院予算委員会で「出産費用の保険適用は慎重に考えなければならい」と発言した岸田首相

  出産費用が重荷になっていることは国会でも取り上げられており、6月3日に行われた参議院・予算委員会で岸田首相が「出産費用の保険適用は慎重に考えなければならない」と述べたと朝日新聞が報じています。

  2009年に出産一時金が原則42万円になりましたが、平均出産費用は2014年に出産一時金を上回りました。費用の上昇は今も続いており、何らかの歯止めは必要と言わざるを得ないでしょう。

  出産費用は現在、通常分娩(ぶんべん)の場合は公的保険の対象外とされ、自己負担となっている。負担を軽減するため、健康保険などから子ども1人につき原則42万円の「出産育児一時金」を支給しているが、都市部を中心に出産費用が高騰。民間団体などは、妊婦側が一時金で賄えない数十万円を負担する例もあると指摘し、公的保険の適用対象とするべきだとの意見も出ている。

  通常分娩は “医療行為” ではないため、自由診療で費用は妊婦の自己負担です。

  出産一時金を現状の10倍以上の500万円に引き上げれば、医療機関側もそれに呼応して出産費用を引き上げることでしょう。保険適用で診療報酬による上限を設けないことを考える必要があるはずです。


参院選に向けた公約として「出産一時金50万円への増額」を発表していた公明党

  岸田首相が「私の判断で出産一時金を大幅増額」と表明した背景は『公明党の公約』でしょう。6月11日に公明党の山口代表が参院選の公約として「出産一時金の50万円への増額」を表明しているからです。

  “公明党潰し” と見られる可能性はありますが、公明党は「掲げた公約は自民党も理解を示すので実現する」と選挙戦で訴えることは可能です。

  したがって、自民党と公明党は「持ちつ持たれつ」と言うべきでしょう。


出産一時金の原資は「現役世代が支払っている健康保険料」

  岸田首相や山口代表(公明党)が姑息なのは『子育て世代が中長期的に損をする対策』を選挙目的で打ち出していることです。健康保険法・第101条には以下の記載があります。

(出産育児一時金)
第百一条
 被保険者が出産したときは、出産育児一時金として、政令で定める金額を支給する。

  出産育児一時金は健康保険法を根拠に納付された保険金が支出されるのです。保険料を支払っているのは現役世代ですから、子育て世代は “将来の自分たち” から金銭を前借りしているに過ぎません。

  出産育児一時金は「医療機関に支払う出産費用の高騰」を理由に増額すると岸田首相は 表明しましたが、それは出産を理由に現役世代から産婦人科への所得移転を強めることと同じです。

  新型コロナを理由に “保険適用となる帝王切開” を積極的に実施して金儲けに走った産婦人科の自制を期待しても徒労に終わるでしょう。

  国民医療費には防衛費と同様に対 GDP 比による総額の上限を設けるべきです。生産性が大きなマイナスである医療に湯水のように国家予算を投じれば国や経済が衰退する現実を認識し、対策を講じることが政治の責任なのではないでしょうか。