尾身氏が「人出の5割減」を求めた8月12日よりも前に東京都の発症日別・新規陽性者数はピークアウト

  8月12日に分科会の尾身茂氏が「緊急事態宣言中であるにも関わらず人々の接触が減らずに新型コロナの感染が爆発的に増加している」との理由から『東京都では7月前半と比較して昼夜を問わず人出を5割削減する強い対策』を要求しました。

  しかし、東京都の人出は5割も減らず、7月前半と大差はない水準でした。

  しかも新型コロナの新規陽性者数は発症日別で尾身氏がマスコミの前で『人出の5割減』を要求した2日前の8月10日にピークアウトしていたことが判明したのです。この事実から目を背ける専門家に対策を託すことは自殺行為と言わざるを得ないでしょう。


政府の分科会はこの2週間、集中的に対策を強化し、東京都などで人出を今回の緊急事態宣言が出される直前の7月前半に比べて5割減らすことなど強い対策を求める提言の案を示しました。

「東京などの人出を5割減に」分科会が強い対策を求める提言案


東京都内での人出は尾身氏らが要求した水準に遠く及ばない減少幅

  まず、5割減が要求された東京都内での人出は「要求水準に遠く及ばない減少幅」で推移しました。マスコミが人出のデータとして用いている agoop 社が発表している日中(PDF)・夜間(PDF)の数値から確認が可能です。

日中の人出

  若者の街として紹介される渋谷の数値は下図のとおりです。

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  渋谷は7月前半の平日では70万人強の人出でした。それが8月下旬(の平日)は65万人ですから、減少分は 10% にも満たない水準です。休日では約50万人の人出が約40万人に下がってはいるものの、こちらは 20% ほどの減少です。

  日数は平日の方が多いため、5割減は夢物語と言わざるを得ないでしょう。この傾向は東京駅(の周辺)でも見られます。

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  したがって、尾身氏の呼びかけに応じた人は日中では少ないと判断できます。

夜間帯での人出

  また、マスコミが「接待を伴う飲食店」と表現する店舗が夜間に営業しているイメージのある繁華街の人出も同様の傾向です。

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  新宿・歌舞伎町では7月前半は「40万人強」の人出が8月下旬は「40万人弱」でした。これは呼びかけが無視されたに等しい状況です。

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  六本木は「20万人弱」の人出が「15万人ほど」に減少していますが、それでも 20% ほどの減少幅です。これらの数値は「昼夜を問わず人出は分科会が求める5割の半分にさえ満たない水準だった」ことを示しているのです。


尾身氏が「人出5割減」を呼びかける2日前に東京都の発症日別・新規陽性者数はピークアウト

  尾身氏が率いる分科会の分析が正しいのであれば、人出の減少幅が要求値に満たない東京都で新型コロナの感染者(=新規陽性者)が減少することはあり得ません。しかし、実際には尾身氏が呼びかけを行う前にピークアウトしていたのです。

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  東京都では発症日別の新規陽性者数を発表していますが、この数値は「8月10日がピーク」です。

  尾身氏の主張が正しいと見なされるには「『人出の5割減』を打ち出した8月12日の数日後以降に発症日別・新規陽性者数のピークが訪れること」が絶対条件です。なぜなら、8月12日以降に「感染」が減少に転じるため、「感染の報告」はそれよりも先になるからです。

  しかし、実際には「感染の報告」のピークが8月10日だったのです。

  この事実を尾身氏や分科会が認められるかが試金石であることは言うまでもありません。「人出の削減をしないと感染拡大は止まらない」との見立ては否定されましたし、これは今回で少なくとも2回目になります。

  同じ失敗を何度も繰り返すのは責任者として明らかに能力不足です。この点を追求しないマスコミも共犯と言わざるを得ないでしょう。


実効再生産数は Rt=1 を下回り、報告日別の陽性者数も減少している

  (東京都では8月10日に)発症日別の新規陽性者数は減少に転じ、報告日別の陽性者数も減少しています。

  実効再生産数Rは1を下回っていますし、新規陽性者数は少なくなるでしょう。ただ、“重症化リスクの低い若者が数値を上乗せした新規陽性者数” を基にした新型コロナ対策で得られる価値は微々たるものです。

  新規陽性者数を扱うなら、「40代以上の新規陽性者数」などの条件付けをしないと使い物になりません。

  『重症者病床の逼迫度合い』を指標にするにしても、「60歳以降の高齢者で重症者病床が埋まっているから経済を止めるべき」との主張が通るのも本末転倒です。高齢者の年金や医療費を支払っているのは「現役世代の経済活動」と「将来世代への借金」だからです。



  『人出の削減』を訴える前に発症日別の新規陽性者数が減少に転じていたのは「昨年4月に行われた1回目の緊急事態宣言」の際にも見られたことです。その当時も尾身氏が専門家のトップでしたから、引導を渡されたとしても妥当と思われます。