ワクチン接種済でもコロナ陽性になるのだから、緊急性の高い妊婦でも受け入れ拒絶となるリスクは残ったまま

 新型コロナ陽性のため自宅で療養していた妊婦が出血したために救急車を呼んだものの受け入れ先となる病院が見つからず、新生児が亡くなったと NHK が報じています。

 このニュースで「ワクチン接種をしていれば」との声があるようですが、これは問題の本質を見誤っています。なぜなら、妊婦は新型コロナ陽性を理由に受け入れを拒まれた疑いが強いからです。

 新型コロナワクチンを接種していても感染する(=陽性反応を示す)ことがあります。その場合は「(緊急性の高い妊婦でも)受け入れが拒絶」されるのですから、同様の悲劇が繰り返される恐れがあると言わざるを得ないでしょう。

 

 

新型コロナで重症化したのではない

 まず、妊婦が救急車を要請した理由は「出血があったから」です。新型コロナ陽性のため自宅療養をしていましたが、息苦しくなるなど容体の急変を訴えたのではありません。

 分娩時に一定の割合で発生する問題に “新型コロナ陽性を理由に自宅療養中だった妊婦” が遭遇してしまったのです。

 したがって、最初に確認すべきは「他の妊婦と比較して差別的な対応をされたのではないか」になります。コロナ陽性を理由に「緊急性の高い妊婦の受け入れ」を拒んだ疑いがあるため、これは行政が調査すべき案件と言わざるを得ないでしょう。

 

病院側は新型コロナを理由にすれば患者の受け入れを拒むことが可能

 次に、病院側は新型コロナを理由にすれば患者を受け入れなくてもペナルティーを受けることはありません。なぜなら、厚労省が通達(PDF)で拒否権を認めているからです。

厚労省からの通達

 特定の感染症へのり患等合理性の認められない理由のみに基づき診療しないことは正当化されない。ただし、1類・2類感染症等、制度上、特定の医療機関で対応すべきとされている感染症にり患している又はその疑いのある患者等についてはこの限りではない。

 医師以外には医療行為ができないよう法律で禁じられていることとの引き換えで医師には応招義務があり、診療を求める者を拒否することはできません。しかし、上述のような例外があるのです。

 今回の場合、出血が見られた緊急性の極めて高い妊婦が「コロナ陽性だから当院では受け入れできない」と複数の医療機関から門前払いに遭った可能性があるのです。これは大問題だと言えるでしょう。

 

医療を通常どおり提供するための優先的なワクチン接種だったはずだが

 なぜなら、新型コロナ対応をしていない医療従事者が優先的にワクチン接種を受けれたからです。その理由は「医療を通常どおり供給するため」に他なりません。

 新型コロナを理由に『平時の医療を必要とする患者』を拒絶しても良いのであれば、希望する医療従事者全員にワクチン接種を優先的に行う必要はありませんでした。

 それなら、『新型コロナ罹患で死亡リスクの大きい後期高齢者』や『高齢者と接する可能性がある介護職員』などが優先接種の対象となるべきでした。

 “勘違いをした医療従事者” がいるなら、行政が灸をすえなければなりません。「医療逼迫」ではなく「診療拒否」で新生児の命が失われたのですから同様の悲劇を繰り返さないためにも介入が必要となるでしょう。

 

「新型コロナワクチン接種をしていれば…」は単なる論点逸らし

 新生児が命を落としたことで「妊婦の方が新型コロナワクチン接種をしていれば…」との主張が散見されますが、これは単なる論点逸らしです。

 ワクチン接種を完了していても新型コロナ陽性になることはあり得ます。医療側は「新型コロナ陽性を理由に診療を拒める」のですから、“ワクチン接種済の妊婦” が「コロナ陽性」を理由に受け入れを拒否される可能性は今も残ったままなのです。

 デルタ株による院内クラスターではワクチン接種済みの職員から陽性者が発生しています。このニュースを知らない医療従事者はいないでしょうし、それを踏まえた改善案を提示できない専門家や識者は不要です。

 「医療の怠慢」を問われたくない医療従事者が言い訳をしてるだけに過ぎません。

 イギリス(やイスラエル)では『自宅療養』が基本であり、新型コロナを理由に通常医療の提供を拒否できる医療体制が問題なのです。怠惰な医療業界にメスを入れることが政治や行政の責務なのではないでしょうか。