ウクライナからの避難民のペットが狂犬病予防の隔離免除となった件は何が問題だったのか

  ウクライナからの避難民が連れて来たペットが『狂犬病予防を理由にした隔離対象』が “特例で” 免除されたことに対し、農水省は「狂犬病のリスクは高まらない」と主張して火消しに奔走しています。

  ただ、この主張は説得力がありません。なぜなら、必要は情報公開をしておらず、真面目に検疫を守ってきた人々の怒りを買うものだからです。

  特例での「隔離期間の大幅短縮」を決めた農水省のは今後も厳しい批判に晒され続けるべきでしょう。


“180日の隔離期間” を「入国前にする」か「入国後にする」かの違いでしかない

  まず、すべての犬が日本入国時に「180日の隔離」を求められる訳ではありません。災害救助犬や身体障害者補助犬(盲導犬・介助犬・聴導犬)は「係留期間が12時間以内」となる “特例” が存在しています。

  それ以外の一般的なケースでは「日本入国前」に待機期間を消化することになります。その際に求められる項目が下表のものです。

救助犬今回
1ワクチン接種証明書
2基準値以上の抗体値を確認
3マイクロチップ装着
α健康観察+他の動物と接触させない

  通常は『持ち込み元の政府が発行する証明書』で確認を行いますが、戦禍のウクライナ政府に証明書の発行を期待するのは不可能でしょう。

  したがって、特例を認めるべき事情は存在します。ただ、「『特例に値する要件』を該当のウクライナからの避難民のペットが満たしているか」に関する情報を伏せたままだったのは大きな失敗と言わざるを得ません。


イギリスでは「動物保護団体が偽造書類を使って狂犬病の検疫を通過させていた」ことが発覚

  なぜなら、イギリスでは動植物衛生庁が2022年3月に「動物保護団体が偽造書類を使って犬19匹の狂犬病検疫を通過いたことが追跡調査で明らかになった」と報告しているからです。

  Follow-up border checks by the APHA showed a shipment of 19 animals imported by a rescue charity travelled on falsified rabies documentation. The dogs had been rehomed and fostered by families across Great Britain, but local authorities and APHA are now tracing the animals to protect public health and ensure we remain rabies free. The animals are being placed in quarantine while a further decision is made on their disease risk level.

  これは『狂犬病ワクチンの接種証明書』を偽造して犬をウクライナからイギリスに持ち込まれた事例が存在することを意味します。

  しかし、日本の農水省は「義務を順守してもらえば、狂犬病発症のリスクが高まることはない」と強調する有様です。この方針に厳しい批判を浴びせられるのは必然と言えるでしょう。


「『ウクライナ政府発行の証明書』以外の項目は満たされている」と言えなかったのが致命的

  農水省が反感を買わずに済んだ説明方法があったことは事実です。例えば、以下のプロセスで説明していた場合でしょう。

  1. 狂犬病予防の隔離期間は最大180日だが、最短で12時間になる『特例』は存在する
  2. 通常は「180日以上の輸入待機」を求めている
  3. ウクライナ情勢では「輸入待機」や「証明書の準備」を求めるのは非現実的
  4. 今回のケースでは「マイクロチップ」や「抗体値」などの項目は満たされている

  上述の説明をできれいれば、批判はそれほど大きくはならなかったでしょう。しかし、ウクライナの避難民が連れて来たペットが『特例』を得るに値する要件をどれだけ満たしているのかは伏せられたままでした。

  しかも、検疫所で停留中のペットは「飼い主自身が世話をする」か「民間事業者に委託する」かの2つの選択肢があることを伏せて “飼い主のウクライナ人女性” や “テレビ朝日” は騒いでいたのです。

  このデマの訂正を求めなかったことも尾を引くことになると思われます。