加藤厚労相、「(伝家の宝刀を残す意味でも)新型コロナの5類引き下げは現実的ではない」との前任者の立場を踏襲
加藤勝信厚生労働大臣が9月9日の閣議後の記者会見で「新型コロナの5類への引き下げは現時点で現実的ではない」と言及したと NHK が報じています。
これは「岸田政権では5類引き下げはしない」と宣言したも同然です。
国民全体が新型コロナ罹患によって深刻な影響を受けるのではないのです。「高齢者が重症化する可能性がある」との理由でコロナ対策を継続しようとしているのですから、シルバー・デモクラシーとの批判は免れないでしょう。
9月9日の加藤厚労相による記者会見での言及
加藤厚労相は9月9日の記者会見で以下のように言及しています。
現在の新型コロナウイルス感染症については、オミクロン株でも、致死率や重症化率がインフルエンザよりも特に高齢者において高いということで、現時点で新型コロナの感染症法上の位置づけを変更することは、現実的ではないということはこれまでも申し上げてきているところであります。
「高齢者のリスクが季節性インフルエンザよりも高いので新型コロナの感染症法上の位置付けを変更することはない」と主張しているのです。
この主張で正当化されるのは「高齢者への行動制限」だけです。中年・若者・子供たちを『高齢者のために新型コロナ対策』に付き合わせているのですからシルバー・デモクラシーとの批判は免れません。
『死因が新型コロナ以外のコロナ死』から算出した高齢者の致死率しか対策を継続する根拠はない
加藤厚労相は「致死率や重症化率が季節性インフルエンザよりも特に高齢者において高い」と新型コロナの法律上の分類変更を拒んでいますが、これは事実を無視した暴論です。
大阪府から報告された新規重症者に基づく重症化率
大阪府の発表から算出したオミクロン株(BA.1)による重症化率が最も高かったのは「70代の 1.3%」です。
アドバイザリーボードに提出された資料(PDF)に記された60歳以上の重症化率は季節性インフルエンザで 0.79%。BA.5 では高齢者の中で最も重症化率が高い80歳以上でも 0.27% です。
重症化率が新型コロナ対策を継続する根拠にならないことは明らかでしょう。
大阪府および東京都から報告された死者数に基づく致死率
季節性インフルエンザによる60歳以上の致死率は 0.55%。2022年6月19日以降に大阪府と東京都から報告された60歳以上の新規陽性者と死者から算出した致死率の推移は以下のとおりです。
大阪府では8月31日に致死率 0.55% を超え、東京都でも9月中旬に季節性インフルの致死率を超えることは確実な状況となっています。
ただ、地方自治体から発表される “新型コロナによる死者数” は「死因が新型コロナではない人」も含まれています。水増しされた致死率を『新型コロナ対策を継続する根拠』にするのは不適切と言わざるを得ないでしょう。
8月2日の後藤厚労相による記者会見での発言
加藤厚労相の前任である後藤厚労相は8月2日の記者会見で「新型コロナを5類に分類すると伝家の宝刀が使えない」と分類変更に否定的です。
感染症法上の2類から5類に分類してしまうと、現行の法律ではそうした緊急事態宣言は打てないことになっているので、そういう意味ではやはり足下、感染が急に拡大して、そしてリスク管理をしなければならないような、そういう事態が発生したときの緊急事態宣言を残すということで言えば、新型インフルエンザ等に分類して、そういう最終的な伝家の宝刀についてやはりまだ確保しておく必要があると、それが現実的な判断であるというのが総理のご答弁でもありますし、我々の考え方です。
要するに、「緊急事態宣言を出すための根拠である『新型インフルエンザ等』を変更する訳には行かない」が岸田政権の本音です。
“重症化率や致死率が劇的に下がった新型コロナ” で緊急事態宣言を発出するのは無理があります。専門家が科学的根拠に基づく判断を下しているなら、covid-19 の法的分類は「5類」か「分類なし」に変更すべきです。
その提言すらできない専門家は政府の意思決定の場から追放しなければならないでしょう。
6月14日の記者会見で「基本的感染対策は現実的ではない」と言っていた後藤・前厚労相
ちなみに後藤・前厚労相は6月14日の記者会見で「基本的な感染対策の緩和は現実的ではない」との姿勢を鮮明にしています。
厚生労働省としては、引き続き「最大限の警戒」をしつつ、安全・安心を確保しながら、可能な限り「日常の生活を取り戻すために必要な対策」を講じていくこととしておりますが、マスクの着用も含めて、基本的感染対策を緩和することは、現時点では現実的ではないと考えております。
厚労省が推奨する『基本的な感染対策』に効果が見られなかったのは「今夏の BA.5 による感染拡大で新規陽性者数が世界最悪だった現実」が物語っています。
この事実を指摘された感染症専門医の忽那賢志氏は「『ハイブリッド免疫』を持つ人が少ないことが原因」との苦し紛れの弁明をする有様です。
過去記事でも指摘しましたが、『ハイブリッド免疫』が決定打なら “日本よりオミクロン株による感染が深刻でワクチン接種率の高い韓国” が BA.5 で日本より新規陽性者が多くなることはありません。
また、ワクチン接種率が低いアフリカなどでの感染拡大が深刻になっているはずですが現実は違います。現実世界での効果が確認できない対策を強いることは弊害をもたらしているだけなのです。この事実は極めて重いと言わざるを得ないでしょう。