「食料品の値上げによる家計負担増からの支持率低下」を嫌う岸田政権、農家に “前倒し” で『化学肥料の使用削減』を要請

  物価高対策として政府が「化学肥料の使用量を減らした農家を支援する制度を設ける」と発表したことを NHK が報じています。

  化学肥料を使わないと収穫量が減少するため、この方針に対する批判の声が出ていることも事実です。しかし、「化学肥料の使用量を2050年に現状から 30% 引き下げる」との方針は2021年5月の時点で決定済みなのです。

  支持率低下を嫌う岸田政権からの要請に忖度した農水省の行為は批判されるべきものですが、農水省に『化学肥料の使用量削減』を求めた根本的な部分にも目を向ける必要があるでしょう。


政府の『物価・賃金・生活総合対策本部』に農水省が提出した対策案が発端

  NHK が報じたニュースは7月1日に開催された政府の『物価・賃金・生活総合対策本部』に農水省が提出した『物価高対策』に基づくものです。(資料:PDF

  岸田政権は「新型コロナ対策による経済失速」と「生活支援のためのバラマキ政策による円安」のダブルパンチに見舞われ、物価高による不満から内閣支持率が下落傾向にあります。

  農水省の管轄では “大部分を輸入に頼らざるを得ない化学肥料” の値上がりが生じており、これを農作物の価格に転嫁しないと農家の経営は行き詰ってしまいます。

  しかし、農作物の価格が上がってしまうと家計の負担が増加した不満は政府(=岸田政権)へと向かうことになります。だから、その状況を緩和するために「化学肥料の使用量を減らすこと」を要請する対策が持ち出されたのでしょう。


『化学肥料の使用量削減』はカーボンニュートラルのために立案・承認済みのアイデア

  農作物の収穫量や品質を向上させるために化学肥料は欠かすことはできません。だから、政府が「化学肥料の使用量削減」を要請したことに批判の声が出ているのです。

  ただ、このアイデアは突発的に浮上したものではありません。

  農水省が「今般設定した『2030年・化学肥料の2割削減』の目標達成に先行して取り組む」と表明したように方針は決定事項だったからです。これは『みどりの食料システム戦略』として2021年5月に策定されています。

  資料(PDF)には「 “化石燃料” を原料とした化学肥料の 30% 低減」と明記されており、『カーボンニュートラル(=脱炭素)を達成するための農林政策』なのは明らかです。

  菅義偉政権時の『国・地方脱炭素実現会議(第3回)』で野上農水大臣が「環境省を始めとする関係省庁と連携しながら脱炭素ロードマップの実現に資する施策を強力に推進していく」と宣言していることが根拠になるでしょう。(議事要旨:PDF

  当時の小泉進次郎・環境大臣が旗振りをしたカーボンニュートラルの弊害が「化学肥料の価格高騰による農作物の価格転嫁への圧力」という形で示されたに過ぎません。

  「ウクライナ侵略したロシアが悪い」との主張で問題を誤魔化そうとする政治家が物価高を緩和するために効果的な政策を打ち出すことは期待できません。そのことは認識しておいて損はないはずです。