知念実希人氏が知らない「オミクロン株の発見を機に新型コロナワクチン改良の意向が表明された理由」

 小説家で医師の知念実希人氏が「オミクロン株用の mRNA ワクチンを製造・出荷できる」と表明したファイザー / ビオンテックを褒め称えています。

 しかし、実際には「そうせざるを得ない事情」があるのです。デルタ株の出現から半年以上も経過した中で『改良型ワクチン』が日の目を見ることがなかった現実に目を迎える必要があるでしょう。

 

大阪大学が示した研究結果が伏線

 理由は今年の9月初旬に大阪大学・荒瀬教授のグループが発表した「デルタ株に特定の変異が4つ加わるとワクチン接種効果が大幅に減少する恐れがある」との研究結果です。

 論文(PDF)は査読前ですが、言及されている “特定の変異” は「E484K ・ N501Y ・ N439K ・ K417N」の4つです。

論文データ1

 "Delta 4+" の抗体結合率が最も低くなるのですが、E484K や K417N は「単一」でも結合率を引き下げる可能性が示唆されています。

論文データ2

 この研究結果は一般紙にも取り上げられているのですから、この “前提” を知った上で「製薬会社の対応」を評価する必要があることは言うまでもないはずです。

 

『デルタ4+』 ≒ 『オミクロン株』

 激しい変異があった『オミクロン株』で確認されている「主な変異」と “デルタ 4+” の差異を比較すると下表のようになります。

“デルタ 4+” 『オミクロン株』
有無 備考
E484K "E484A" の変異あり
N501Y
N439K -
K417N 結合率を大きく悪化させる

 単一での結合率を悪化させる "K417N" が含まれている上、 "E484" も関与している『デルタ 2.5』と呼ぶべき変異をしているのです。

 これらの変異はいずれも「新型コロナワクチンの接種効果を下げる恐れ」があります。mRNA ワクチンは改良が容易であることが特長のはずですから、製薬会社が修正を加える意向を示すことは自然なことと言えるでしょう。

 

「なぜ『デルタ株』に対応したワクチンに作り変えないのか?」との疑問は残る

 現在のワクチンは『中国・武漢で発見された原種株』を基に製造されたものです。大阪大学の研究でも「“デルタ 4+” は『デルタ株』を基に製造されたワクチンで防げる」と言及されています。

 対抗策として、従来の株でなく、デルタ株を元に抗体を作れば、4種類の変異を入れたデルタ株に対しても感染を防ぐ効果があることを確認した。

 奇妙なのは『デルタ株』に対応したワクチンが作られていないことです。

 インドで『デルタ株』が猛威を振るい始めたのは「2021年4月」です。南アフリカ以外での感染拡大が問題にならなかった『ベータ株』とは異なり、『デルタ株』は世界中で感染拡大が確認されました。

 しかし、ファイザー(/ ビオンテック)やモデルナは『デルタ株を基にした mRNA ワクチン』の製造を表明したことはありません。それが「100日ほどで製造・出荷できる」と言い出したのですから疑念が生じるのは当たり前です。

 

 『オミクロン株の感染』に対しては「『武漢株を念頭に置いた現行の mRNA ワクチン』だと『ワクチン未接種者』よりも深刻な状況に陥る可能性」を製薬会社が懸念しているからワクチン改良に乗り出す十分すぎる動機になるでしょう。

 調査の過程で「大阪大学・荒瀬教授のグループが発表した “デルタ 4+” で懸念されている点は現実世界では起きていない」と統計で示されることも起こり得ます。新型コロナの恐怖を煽りたいのであれば、事実に基づく情報発信を行う大原則に忠実であるべきです。