感染研が発表した「新型コロナワクチンの予防効果は91%」との分析は古くて使える代物ではない

 読売新聞が9月4日付の記事で「新型コロナワクチンの2回接種で発症予防効果は91%」との分析結果を国立感染症研究所がまとめたと報じています。

 ただ、この分析は現時点で使い物になりません。内容が古すぎるなど複数の問題点がある分析だからです。

 感染研が発表した「ワクチンによる予防効果 91%」を持ち出してワクチン接種を訴える人がいるなら、『盲目的なワクチン信者』と言わざるを得ません。相手にせず、主張を聞き流す必要があります。

 

感染研が発表した分析結果

 読売新聞が報じた『感染研によるワクチン接種効果の分析』は感染研のホームページ上に「第1報」として掲載されています。効果として言及されているのは下表のとおりです。

ワクチン接種による有効性(調査期間:6/21〜7/20)
年齢 1回目接種 2回目接種
男性 女性 男性 女性
90歳超 83.9%
【73.4 - 91.1】
75.7%
【67.7 - 82.3】
95.9%
【91.1 - 98.5】
92.6%
【88.7 - 95.5】
80代 79.7%
【74.7 - 83.9】
80.3%
【75.9 - 84.1】
94.7%
【92.1 - 96.6】
96.1%
【94.1 - 97.5】
70代 73.7%
【69.0 - 77.9】
76.4%
【72.2 - 80.1】
96.9%
【95.1 - 98.2】
95.4%
【93.1 - 97.1】
60代 81.0%
【76.7 - 84.8】
81.2%
【76.0 - 85.5】
95.3%
【92.1 - 97.5】
92.6%
【88.4 - 95.7】
50代 55.4%
【42.2 - 66.4】
37.9%
【21.3 - 52.0】
91.5%
【84.3 - 96.1】
89.1%
【84.3 - 92.8】
40代 47.5%
【31.6 - 60.8】
38.0%
【19.2 - 53.6】
90.8%
【84.8 - 94.9】
85.4%
【80.5 - 89.5】
30代 48.8%
【32.0 - 62.7】
32.5%
【11.3 - 50.0】
93.4%
【89.1 - 96.4】
85.7%
【80.7 - 89.7】
20代 53.6%
【38.3 - 66.1】
50.2%
【36.8 - 61.6】
89.6%
【84.8 - 93.3】
91.8%
【89.2 - 94.0】

 感染研が行ったのは「新規陽性者数を用いた数理モデルによる測定」ですから『新型コロナワクチン接種による発症予防効果』になります。

 この調査に意味がないことは既に実証済みですし、それを何も指摘していない読売新聞の記事は問題視されるべきでしょう。複数の理由があるからです。

 

感染研によるワクチンの有効性報告で触れられていない事実

1: 調査期間が「2021年6月21日から7月20日」

 まず、最初に問題視されるべきは調査期間でしょう。感染研が行った調査期間は「2021年6月21日から7月20日までの1ヶ月」で、調査結果は9月初旬に公表されました。

 これが問題となる理由は「同時期にイスラエルで行われた新型コロナワクチンの有効性を調査した結果が既報だから」です。

イスラエルにおける時期別のワクチン接種の有効性
調査期間 感染 発症 入院 重症化
1/31 〜 2/27 94.3% 96.8% 97.1% 97.4%
2/28 〜 3/27 96.9% 97.9% 98.4% 98.8%
3/28 〜 5/1 95.8% 97.4% 99% 99%
5/2 〜 6/5 94.3% 95.6% 98.2% 98.4%
6/6 〜 7/3 64% 64.2% 93% 93.4%
6/20 〜 7/17 39% 41% 88% 91%

 “昨年末(=2020年12月)から新型コロナワクチンの接種を始めたイスラエル” は「2021年5月の調査期間までの間はワクチンによる発症予防効果は 95% で推移」をしていました。

 日本で医療従事者を対象にした新型コロナワクチン接種が先行接種が始まったのは2021年2月から。『2回目接種を終えた医療従事者』が報告されるのは「2021年3月以降」であり、発症予防効果が高いことは当たり前です。

 したがって、感染研がまとめた分析結果は「海外で報告された分析結果を参考に学生が執筆した報告レポート」と同じような水準と見なされるでしょう。

 

2: ワクチン接種の持続性への言及が皆無

 次に問題となるのは「ワクチン接種で得られる有効性の持続期間」です。これは『ワクチン接種先進国』であるイスラエルから「半年ほどで有効性は失われる」との報告が7月下旬には公表されていたからです。

ワクチン接種によるイスラエルでの抑止効果(調査期間:6/20〜7/17)
2回目接種時期 感染 発症 入院 重症化
2021年1月 16% 16% 82% 86%
2月 44% 44% 91% 91%
3月 67% 69% 89% 94%
4月 75% 79% 83% 84%
全体 39%
【9 - 59】
41%
【8.7 - 61.2】
88%
【78.9 - 93.2】
91%
【82.5 - 95.7】

 この情報は感染研での調査・分析担当者は『知ってなければならない基本的なこと』です。

 世間一般の人々は「ワクチン接種が世界で最も進んだイスラエルで今夏にデルタ株による感染爆発が起きていたこと」を知らなくても止むを得ません。しかし、専門家の場合は話は別です。知らないのは「明らかな能力不足」となるからです。

 日本国内で高齢者へのワクチン接種が本格化したのは今年5月のゴールデンウィーク明けです。2回目接種が完了したのは6月以降であり、ワクチン接種による有効性が最も高い時期を切り取る形で効果を宣伝することは悪質との指摘があって当然と言えるでしょう。

 

3: 日本人はファイザー製のワクチン接種で得られる中和抗体価が(欧米よりも)高い

 3つ目は「ワクチン接種で得られる中和抗体価の違いへの言及がないこと」です。イスラエルも日本と同じファイザー製の新型コロナワクチンを接種していますが、日本と欧米ではワクチン接種で得られる抗体価に違いがあります。

国内治験で示された新型コロナワクチンの抗体価

 新型コロナワクチンの承認申請を審査した医薬品医療機器総合機構が発表した審査報告書の内容を確認すると、『日本の65歳以上』がワクチン接種で得た血清中和抗体価の数値は『海外試験での18〜55歳』に該当するものです。

 『日本の現役世代』は『高齢者』よりも抗体価は高く、ワクチン接種で得られる有効性が引き上げられることは十分に想定されることでしょう。

 また、抗体価が高いほどワクチンの有効性が減衰するために時間を要するため、効力が(イスラエルなどの諸外国よりも)長持ちすることへの期待もできます。

 日本で新型コロナワクチンの有効性を調査するなら、日本の事情が反映された調査結果に言及されるべきでしょう。それすらしていないのですから、コロナの専門家が信頼を失うのは当然の結果と言えるではないでしょうか。