AERA の記事内容を鵜呑みにする知念実希人氏の「ワクチン確保の障壁となった問題点への認識」は残念すぎる

 作家であり医師でもある知念実希人氏が AERA dot. の「野党議員からの中国製やロシア製のワクチン確保にも努めるべきとの国会審議を受けてファイザー社の怒りを買った(ことでワクチン確保に問題が生じた)」との記事「これはひどい」とツイートしています。

 ただ、知念氏が記事の内容を鵜呑みにしてしまったことは否定できないでしょう。なぜなら、今年5月に読売新聞が「日本政府とファイザーのワクチン確保交渉の内幕を実名で報じている」からです。

 

知念実希人氏がツイートした内容

 知念氏のツイートは以下のものです。

 ツイートに添付されている画像の記事は AERA dot. が7月25日付で掲載しています。記事の主張としては「野党の動きがワクチン確保の妨げになった」とのものですが、記事で触れられている内容のすべてが事実ではありません。

 少なくとも、(知念氏が「これはひどい」とツイートした)2月12日に行われた国会審議で柚木議員による「ロシア製や中国製のワクチン確保にも努めては?」との質疑がファイザー社との交渉の問題になったとは言い難いからです。

 

AERA dot. の記事では言及されていない事実

読売新聞が報じたファイザー製ワクチンの確保交渉の内幕

 今年の5月25日に読売新聞が以下の記事を報じています。

 政府内で確保への取り組みが加速したのは、今年1月だった。

 「ダメだ。遅すぎる」

 年明け間もない首相官邸の執務室。菅は、「ファイザーのワクチンが日本に来るのは早くても4月」と報告した首相補佐官の和泉洋人に、声を荒らげた。

 (中略)

 ところが、交渉はつまずく。ワクチンの早期供給を求めた日本に対し、同社は「日本は、欧州より感染状況は悪くない」と主張し、「日本への供給は4月」との考えを譲らなかった。

 (中略)

 杉山は力説した。「日本はまだ欧米より感染者は少ないかもしれない。だが、日本のトップ(首相)は『この後、大変なことになるかもしれない』と大きな危機感を持っている」

 「本当に日本の首相がそう言っているのか」。ブーラは何度も念押しした上で、こう言った。「日本はとても大きな市場だ。努力しよう」。その後、厚労相の田村憲久もブーラと電話で交渉し、早期供給を求めた。

「ダメだ。遅すぎる」声を荒らげた首相、ファイザーCEOに直談判

 今年1月の時点で『厚労省ルート』を使ってのワクチン確保交渉は進行していましたし、ファイザー社からは「感染状況は悪くない」との理由で「供給は4月以降」と交渉は停滞していたことが明かされています。

 このスタート地点を見誤った(知念氏の)主張は良いものとは言えないでしょう。

 

『政府関係者が実名で書かれた読売新聞の記事』を『AERA の匿名記事』が信用度で上回る?

 AERA の記事で「柚木議員の国会質疑でファイザー幹部が激怒した」と述べたのは “官邸周辺者” です。

 一方、今年5月に掲載された読売新聞の記事には「和泉洋人・首相補佐官」や「杉山晋輔・駐米大使」など官邸周辺者が実名で登場します。どちらが信用度が高いかは言うまでもないでしょう。

 匿名記事の場合は該当の人物が実在していなくても記事は成立します。しかし、実名を出した場合は「(記事の内容次第では)実名を使った相手から訴えられるリスク」があります。

 「都内の病院で働く医師は語る〜」と「都内の病院で働く医師の知念実希人氏は語る〜」では語られた内容が同じでも、後者の方が信用度が高くなる状況が生じます。この前提は把握しておく必要があるでしょう。

 

「欧米より感染状況が悪くない日本にワクチンが即座に必要とは思えない」とのファイザー社の感覚は正常

 ファイザー社が日本へのワクチン供給を渋った理由は「日本の新型コロナ感染状況が欧米よりも1桁少なかったから」です。この状況で「日本政府からワクチンの早期供給要請が来る」とは考えないでしょう。

 日本より人口が多い(=市場規模が大きい)アメリカや EU で感染拡大が起きているのですから、日本へのワクチン供給は喫緊の課題ではありません。そのため、ブーラ CEO は「本当に日本の首相がそう言っているのか」と何度も念押ししているのです。

 日本にワクチン供給を優先的にしようとすれば、『日本より感染状況が深刻な国』が後回しにされてしまいます。

 ワクチン供給が後回しにされた被害が深刻な国から恨みを買うことは避けられません。また、日本の新型コロナによる被害は「ワクチン接種後の欧米と同水準」と見積もられていたため、ニーズそのものをファイザー社が疑っていたことは事実でしょう。

 もし、ファイザー社が「日本でも新型コロナワクチンへのニーズは高い」と判断していたなら、柚木議員の国会質疑に幹部が激怒することはありません。中国製やロシア製ワクチンが市場のニーズを満たし、ファイザーは売上機会を逸することになるからです。

 

 知念氏が「ワクチン接種による集団免疫達成を訴える立場」であるなら、ワクチン供給の遅れに対してナーバスになることは理解できます。ただ、センシティブな話題なのですから、ツイートとは言えども慎重さが必要なのではないでしょうか。